子どもが大人になるにつれ、母親としての役割は薄れていくはず……と思いきや、さまざまな事情があって、子どもの人生に関わっていたい、関わらなくてはならない、という母親たちがいます。後編は、子どもの就職、結婚に口を出さずにはいられない母親たちです。(取材・文=樋田敦子)

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「もう少し我慢してみたら」とは言えなかった

「息子のために就職先を見つけてきた」というのが、関西に住むパート主婦、柳川恵子さん(55歳・仮名)だ。彼女は地域でも知られた資産家の家に生まれた。姉が嫁いだこともあり、見合いで婿養子をとって家を継ぎ、そこに生まれたのが、現在27歳の長男と25歳の次男。婿に入った夫は存在感が薄く、子育ては柳川さん任せだった。長男は中学受験して入学した中高一貫校を卒業し、付属の大学に進学した。ところが進級が危うくなり、「好きで入った大学ではなかった」と中退してしまう。

「大学にも行かず、家でぶらぶらしていては、世間の目が気になります。それで私がコネを使って、就職先を見つけてきたのです」

就職先は地域に根ざす中小企業の営業職。ところが上司から「お前、その髪形はなんだ。仕事をする気があるのか」とパワハラまがいのことを言われる。長男は「これ以上続けられない」と訴えた。

「精神的に追い詰めてもよくないと思い、“もう少し我慢してみたら”とは言えませんでした。息子のせいで会社に迷惑をかけてはいけないと考えて辞めさせ、その次の就職先も私が探してきました。ところがそこも“自分には合わない”と辞めてしまって……」

退職を繰り返すこと3度。現在の会社にはなんとか1年以上勤務している。長男には何がしたいという希望もなく、母の敷いたレールに乗っていれば間違いないと考えているようだ、と柳川さん。

さらに、次男にも手がかかった。高校時代には警察に補導されるなど、悩みの種だった。その後、一念発起し輸入品販売の会社を立ち上げて生活しているが、「運転資金が足りなくなった」と資金繰りにやってくる。

「2人とも男の子とあって、家を継いでくれると周囲が期待し、甘やかして育てたのが原因でしょうか。優しい子たちなのですが、なぜこうなってしまうのか。2人の子育てに完全に失敗しました。できることならもう一度、自分のおなかの中に戻したいです」

周囲からは、「もういい大人なんだから、就職先の斡旋などせずに放っておけばいい」と言われるが、そうすることができない。

「不出来な息子の責任は、最終的には私がとらなければならない。こういう状態が続いている限り、母親を卒業したくても、できないんです」