時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは富山県の50代の方からのお便り。ケアハウスで穏やかに過ごしている、103歳の祖母に会いに行くと――。
徳利いっぱいの仕事
林檎畑に囲まれたケアハウスへ、祖母に会いに行きました。入居から10年、祖母は103歳を迎えましたが、変わらず穏やかに過ごしている様子で、施設との相性や運のよさをありがたく思います。
大病もせず、薬や通院とはほとんど無縁。近頃は食事も忘れて眠り込む時もあるそうですが、口癖は「眠ることが仕事だよ」と、大らかです。
この日は目がしっかりと開いていました。「今日は眠くないの?」と声をかけると、「徳利いっぱい寝たから眠くないよ」と返事が。「徳利いっぱい」という言葉を聞くのは子どもの頃以来だったので懐かしくなります。
徳利にお酒をいっぱいに満たした状態になぞらえて、「十分に」という意味です。《仕事》はずいぶんはかどった様子。
背中をさすっていたら、「あれ温かや」と声がかかります。「今日は暑いから嫌だった?」と尋ねると、「気持ちいいよ、ありがとう」と嬉しい一言。食堂の一面ガラスサッシの窓の向こうに広がる林檎の木や山は見えるか聞くと、「よう見えとる」としっかりうなずきます。100歳をいくつか過ぎたと思えぬほど澄んだ瞳。お別れに、「さいならまた来られ」と声をかけてくれました。
後日、富山の方言を検索してみたのですが、「徳利いっぱい」は見当たりません。どうやらわが家だけで通じるオリジナルの言葉だったのでしょう。
そんなことが今にして明らかになるなど、103歳と語らうのはとっても楽しみです。