義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 阿岐本が高森への質問を再開した。
「中国マフィアに金を借りたって? なんでまた、そんなことに……」
「自分は、お上に組事務所も取り上げられちまいまして……」
「ああ、その件は知っている。それで地下に潜ったと聞いたが……」
「一言で地下に潜るなんて言いますが、そいつは簡単なことじゃねえんで……。つまり、それまで頼りにしていた看板も何もねえってことです。だから、たいていは手っ取り早い薬物の販売ってことになりますが、それも後発の自分らにはきつい……。シノギはうまくいかねえし、組を解散したわけじゃねえんで、上納金は取られるしで、にっちもさっちもいかなくなって……」
「それで、中国マフィアか……」
「渡りに船だったんです。最初は不動産の仲介なんかをやっていたんですが……」
「中国人に土地の斡旋をしていたんだな?」
「はい」
「宅建の資格とか持ってるのか?」
「いえ、モグリです」
 日村はちらりと、警察官たちがいる席を見た。谷津たちはこうした違法行為の疑いに興味があるはずだ。