5頭の個性派ヤギたちを世話するという幸福
いつか、どこかへ移住したい。
しかし移住先での仕事はどうする? 地域コミュニティに溶け込める? いろいろと面倒になって、たぶん実行できない気がする。
瀬戸内海の小豆島への移住を実現したのが、文筆家でイラストレーターの著者。本書では島でヤギ飼いとして暮らす日々を描いている。
もともとは家の周辺の雑草を食べさせようと飼い始めたヤギ。しかしあまり食べてくれず、著者の顔を見てはメエメエと鳴く。やがて「偏食ゆえの空腹」「仲間がいない寂しさ」「繋がれることの不満」から鳴いていたとわかる。
身近に置いて可愛がる愛玩動物というと犬や猫を思い起こすが、本来家畜であるヤギも著者にとっては愛玩動物。ヤギに頭突きされて、青痣だらけになりながらも愛でる。なんと献身的な飼い主!
登場するヤギは実に個性的だ。緻密なイラストとともに個々の性格を詳しく記している。
一番長く飼っているカヨはさしずめゴッドマザー。その後、カヨの子の茶太郎と玉太郎が生まれ、紆余曲折あってカヨと茶太郎(息子兼夫!)との間に銀角と雫を授かった。結果ヤギは5頭体制となった。
著者は季節ごとの草花のどれがヤギの餌になるかを探りながら、自分の食料になる野草もゲット。どこまでもヤギファーストの生活は、子育て中の母のようでもある。
夏は虫と暑さ、体力の限界と闘いつつ、ともかくヤギを食べさせなければならない。先の季節を見据えながら、休むことなくヤギたちの世話をする日々が著者の「幸福」なのだろう。「幸福」とは人によって違うが、おそらく「充実」と重なるところがあるように思う。
自然相手、ヤギ相手の日々は大変だけどこんなにも充実している。その実感が本書のタイトルとなっている。読み終えて、ちょっとヤギになりたくなった。