清水ミチコさん、阿川佐和子さん、平野レミさん(左から)撮影:清水朝子
平野レミさんの夫で、名イラストレーターの和田誠さんが、2019年10月7日に亡くなりました。多くの人を魅了したイラストや装幀、エッセイはもちろんですが、映画やジャズを愛し、映画監督としての顔も持ち、妻のために歌もつくるというマルチな才能に溢れた和田さん。訃報から3ヵ月後、日ごろからおつきあいのあった阿川佐和子さんもお招きして、寂しいけれど楽しく故人を偲びます(撮影=清水朝子)

※3月3日に「和田誠さんを囲む会」が予定されていましたが、新型コロナウィルスの広がりを考慮し、延期になりました

あんないい人はいなかった

清水 レミさん、「未亡人」になって、なにかわかったことはある?

平野 ふたりともいろいろ心配してくれてありがとね。和田さんが亡くなってわかったのは、あんまり完璧な夫と結婚しないほうがいいってことかな。だってさ、イヤなところないと諦められないもん。

清水 イヤなところ、なかったんだ。

平野 なかった。いい人だったねぇ、あの人。本当にいい人だった。

阿川 この流れで言うのもナンですけど、日本って、死んじゃうとやたらいい人になる傾向あるよね。

清水 確かに、しばらくは悪口言えない。でもね、うちの両親なんて喧嘩ばかりしてたはずなのに、父が亡くなった途端、母が「あんないい人はいなかった」って何度も言ってんの。

阿川 お父さま、亡くなってどれくらい経つの?

清水 もう10年くらいになるかな。でも母はまだブルーな感じ。

阿川 夫に先立たれた妻の場合、3ヵ月も経てば元気になるってよく言うじゃない。

清水 いや、ずっと元気ないまま。私や弟からすれば、「あんなこともこんなこともあったじゃない」って思うのに、なにか言うと「あれだけ頑張った人にそんなこと言うもんじゃない……」って。すっかり変わっちゃったの。自分まで半分死んじゃったような感じなのかもしれない。

平野 そうなんだ。

阿川 私の父は、それこそお膳ひっくり返すような暴君だったでしょ。母はいつもひどい目にあっていたから、子どもたちはいつ離婚してもいいと思ってた。母の耳が遠くなったのだって、父にぴしゃって叩かれたからじゃないかしらって。

でも老人病院に入院してからの父は、なにかと「母さん、母さん」で、しまいには「母さんも入院すればいいじゃないか」と言い出した。

清水 娘がいても、もうひとつ物足りないものなんだね。