平野 和田さんはさ、今度も死んじゃったけど、前にも死んじゃっててね。
阿川 それはレミさんが、勝手にそう思い込んだだけでしょう?
平野 だって、お芝居に行ったらちっとも帰ってこないのよ。だから私、死んじゃったと思って警察に電話したの。「今日、茶色のトレンチコートを着た、36歳くらいの男の人が死んでませんか」って。
そしたら電話の向こうで受話器を置いて、別の電話で聞いてるの。「トレンチコートを着た36くらいの男は死んでないか」って。それを待ってる間、もう心臓ばっくんばっくんで、生きた心地がしなかった。それで「お待たせしました。今日は死んでません」って。
清水 受話器の置き方が、時代だね。
平野 その少し前に、イラストレーターの灘本唯人さんから「レミさん、人間の心の中なんてわからないものだよ」って言われたの。幸せそうに見えても、心の奥のほうは悲しかったり苦しかったりするから、人間は本当に複雑なんだよ、って。それを思い出して、「大変、和田さんはきっと樹海で自殺したんだ」って考え直したのよ。
清水 灘本さんのお話、タイミング悪かったね。(笑)
平野 こりゃみつかるわけないと思って、猫連れて実家に帰った。
阿川 諦めが早すぎる。
清水 せっかちだから。
平野 でもタクシーが実家に着いたら、母が「和田さんから電話があった」と言うので、そのままタクシーから降りずに戻ったわよ。そしたら和田さん、真っ赤っ赤な顔してゲラゲラ笑ってるの。こっちは泣きそうな思いしてたのに。井上ひさしさんのお芝居観た後、そのまま一緒に飲みに行っちゃったんだって。
阿川 新婚らしいエピソード。あの頃は携帯がなかったから、男女がひやひやすることはいっぱいあったでしょうね。
清水 和田さんは男女問わずモテてたけど、和田さんがほかの女性にっていうことはなかった。
平野 和田さんは、手は出さない!
清水 びっくりしたー。そんなに政治家みたいに言わなくても。
平野 白い紙が好きな人だったでしょ。だけど、白い肌には興味なかったね。
清水 もう、なに言ってるんだろう。名言みたいに。(笑)
平野 和田さんのなかでは、本当は佐和子ちゃんが一等賞で、私は二等賞だったと思うわ。
清水 少なくとも、阿川さんが一等賞ってことはないでしょ。
阿川 和田さんと一緒に飲んだり歌ったりするようになった頃、「阿川さん、また会おう。でも僕がいちばんすきなのはレミだけどね」って、断りを入れられたことあるもの。
平野 ほら、それがいちばんすきってことよ。私のことは立ててくれてたの。
清水 人間は本当に複雑なもんだねえ。(笑)
〈後編につづく〉
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