人間の心の中なんてわからない
平野 佐和子ちゃんのご実家じゃないけど、私の知り合いの写真家に、食事のたびに奥さんに献立書かせる人がいるの。それで、「これは食べない」「これも食べない」ってはじいて、奥さんはできた食事をお膳にのせて部屋まで持っていくんだって。
清水 その人、ひとりで食べるの?
平野 そうよ。グラスも、ちょっとでも曇ってたら怒られるの。それに比べて、うちはどんなにドロドロでも平気だった。洋服が笥の引き出しから流れてても、怒られたことない。
阿川 でも、そんな和田さんがたった一遍だけ怒ったっていう有名な話がありますよね。
平野 え、なんだっけ。
阿川 なんでレミさんが覚えてないの(笑)。和田さんが映画を撮ってらした頃、帰ってきたら洋服に長い髪の毛がくっついてた話。
平野 ああ、それね。長い髪の毛はなにか咎めたら、「そんなこと言うなら別れるよ」って言われたの。
清水 和田さん、潔癖だもんね。
平野 だから「ごめんなさい」って謝った。和田さんって静かに言うから、おっかないの。
清水 私、和田さんと青山にあったおヒョイさん(故・藤村俊二さん)のお店に何度か飲みに行ったことがあるのね。歩いて帰る道すがら、「和田さんは幸せで、つらいことはなさそうな人生ですね」なんて言ったら、「ないことはないよ」ってちょっと探して、「レミに疑われたことがあって、おれのことを信じてないのかあと思った」って。
平野 わあああ。
清水 長い髪のことだね。
阿川 一致したね。すてきなお話。はじめて聞いたわ。