連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間務めながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
1.血液採取で暴れる母
業界新聞社の記者をしていた時、ある病院の素晴らしいシステムについて、副院長にインタビューすることがあった。システムとは関係がないが、どうしても聞いてみたくて、副院長に「医師にとって一番大切なのは何ですか?」と質問した。
すると副院長は「人徳です」と即答した。
認知症になった母から、その言葉の深さを学んだ。
母の認知症は、80代後半になると、どんどん悪化した。その頃の母は私を妹だと思っていた。私は会社に勤めていたが、ケアマネジャーさんやショートステイをした施設の責任者から、自宅にいるのは無理だと説得され、母は老人ホームに入居することになった。
コロナ禍前のことなので、面会は自由だった。私は1週間に1度、兄が入院する精神科病院に面会に行き、その帰りに母のいる老人ホームに寄った。
すると、老人ホームのケアマネジャーさんと看護師さんが、私に、「健康診断でお母様の血液を採取したら数値が異常でした。血液を採ろうとすると暴れるので、どうしたら良いですか?」というのである。私が押さえても、暴れるものは暴れるのだろうから、どうしようもない。高齢者なので、血液の数値に完璧を求めるのは無理ではないかと、私は勝手に考えた。ケアマネジャーさんからは、「このままでは命が危ないから、もしもの時は施設で最期を迎えるという『看取り契約』をしてはどうですか」と言われた。
私は、その老人ホームに来る医師に会いたいと言った。
後日、その医師に会うと、「『看取り契約』はまだ早いが、血液検査はしたい」と言う。思いやりのある良い医師だったので、私は安心した。しかし、血液を採取しようとすると、母が暴れるのには困っているようだった。