イメージ(写真提供◎Photo AC)
連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります

1.母が車にはねられた

「ピンチはチャンス」というが、認知症の家族を2人抱えているとピンチはピンチだけだった。認知症の母と統合失調症に認知症が加わった兄は、いつも同時に事を起こし、そのたびに私はピンチを切り抜けなければならなかった。

私は母と兄と3人で暮らしていたので、2人の面倒をみるのは私しかいない。しかし経済的な理由から私は会社に勤めていた。介護休暇も介護休業もない時代で、介護が必要な親のために会社を辞めようか、辞めないでいようか、と悩む人たちが私の周りにいた。それは現在も同じだと思う。私は62歳の定年を過ぎても、65歳まで延長雇用してもらおうと決めていた。この事件は定年間際の時に起こった。

会社で一人で残業をしている時に、兄から電話がかかってきた。

「お母さんが横断歩道を渡っていた時に車にはねられた。はねた人とそれを見ていた人が、お母さんを家に連れてきたんだ。はねた人が救急車を呼んだ。俺はお母さんと一緒に救急車に乗っていく」と兄は沈んだ声で言った。

母を車ではねた人が家に連れてきたということは、母が自宅を言い、歩けたと思った。横断歩道は自宅のすぐ近くだった。

私は、「どこの病院に行くか分からないから、病院についたら電話して。会社の電話番号をメモして持って行ってね。私は会社にいるから」と言うと兄は「分かった」と答えた。