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連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります

潔癖症の主人公に19歳の自分を重ね、エネルギーの向け方の誤りを知る

70代になるまで、様々な映画を鑑賞してきたが、どうしても見なければならないと思い、初めて純愛映画を見た。『婦人公論』2月号で、俳優でBE:FIRSTのメンバーでもある三山凌輝さんのインタビュー記事を読んだら、映画『誰よりもつよく抱きしめて』(内田英治監督。原作は新堂冬樹=新装版は光文社文庫)で、強迫性障害による「潔癖症」の青年の役を演じたとあったからだ。ちなみに三山さんは『虎に翼』で坊主頭の直明ちゃんを演じてた俳優さんです。

映画は、三山さん演じる絵本作家の水島良城が、絵本の書店に勤める桐本月菜(久保史緒里さん=乃木坂46のメンバー)と同棲しているが、潔癖症のために彼女に触れることができない。良城は、いつもビニールの手袋をして、帰宅するとすぐに身につけていたものを全て洗濯するのである。そのうちに2人に別の相手が現れて…というあらすじだ。

私は純愛のところではなく、良城の潔癖症の行動に注目していた。コロナ禍で手洗いと消毒が必要となり、以前からこの病気の人はさらに苦しみ、新たに発症した人も多いのではないだろうか。

潔癖症は、私が19歳の夏の終わりから20歳の秋にかけて約1年間患った不潔恐怖症と同じだ。それまでは、私はトイレ掃除が大好きで、街で面白いトイレがあると、スケッチまでしていた。それが一変してしまったのだ。

私を不潔恐怖症という泥沼から救い出してくれたのは、高良興生院院長の阿部亨先生(1925年~2023年)とひとりの刑事さんだった。

私は良城の姿に、「何のためにやっているんだ!そんなことじゃ、治らないぞ!」と心の中で叫んでいた。「エネルギーの使い方が完全に間違っていた」と、71歳にして若き日の自分の愚かさを納得したのである。

現在、私は友人や知人から「統合失調症のお兄さん、難病に倒れたお父さん、認知症のお母さんの面倒をよくみられたわね」と言われる。不潔恐怖症を治した考え方があるから、面倒をみられたのだと思っている。

阿部先生には、診察での助言はもちろん、日記を書いて指導してもらっていた。そのアドバイスを思い出し、日記を50年たった今読むと、困った家族に対応するために、私は不潔恐怖症から学ばなければならなかったとすら思えた。

映画を見てからインターネットで調べたら、阿部先生は「ミスター森田療法」と言われていたことを知った。高良興生院は1995年に閉院したが、阿部先生は森田療法クリニックを開設して2013年まで診療していた。