認知機能が低下しても過去の記憶は残る
昔の写真を見る、流行歌を聴く、歌う、自分の人生を回顧する――。そうした「回想法」のトレーニングは認知機能の改善や心の安定につながるといわれ、介護施設などでも広く取り入れられています。実際、認知機能が低下してしまった人に、「小学3年生の時に住んでいた家の間取りは?」「小学校から自宅までの道順を教えて」とたずねると、すらすらとペンを走らせ、いきいきと当時の思い出を語り出すことは珍しくありません。
そうした回想法を手軽に実践できる手段として、「昭和クイズ」に注目が集まるようになりました。ではなぜ、かつて流行した文化や出来事を思い出すと、脳が活性化するのでしょうか。
過去の記憶は、脳の奥深くにある「大脳辺縁系」のうち、記憶や想起を司る「海馬」や、情動を司る「扁桃体」と大きくかかわっています。一方、ものを知覚したり考えたりといった知的な活動は、脳の表面の「大脳新皮質」が担当。眠っていた過去の記憶を呼び覚ますことで、大脳辺縁系が活発化し、その外側を覆っている大脳新皮質も刺激されて認知機能が向上すると考えられているのです。
また、古い記憶は神経細胞(ニューロン)の根っこのほうでつながっているのですが、古い記憶をたどって根っこの部分を刺激することで、新たな記憶にかかわる先端の神経細胞も活性化しやすくなるといいます。
このほか、「懐かしい」という感情を抱くことにも重要な意味が。慣れ親しんだものに触れることで、脳の中枢から「ドーパミン」や「オキシトシン」といった《幸せホルモン》が分泌されます。これらの物質は、ストレスを軽減し心を落ち着かせて、前向きに取り組む意欲を生み出してくれるのです。
『婦人公論』世代は昭和という時代を実際に見て、聞いて、体験しているため、設問を見ると「知っている気がする」「習ったはず」といった感情を抱くでしょう。これを「センス・オブ・ノウイング」といいますが、なんとか記憶を引き出そうと努力するため、いい意味で諦めが悪くなります。脳は記憶探索をしている過程で活性化するため、楽しみながら、高いトレーニング効果を得られるのです。