(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「パスタ・カンタービレ!」(画=一ノ関圭)

パスタだ。ペペロンチーノだ。今はそれしか作りたくない。人が来ると「パスタ食べてけ」となるのである。

「パスタ食べてけ」の前は「天津飯食べてけ」だった。その前は忘れた。その前といったら早稲田と熊本との行き来に汲々としていた頃で、人をうちに呼ぶ余裕がなかったのかもしれない。今はよく人が来るから、酒食を饗する。今はパスタを饗する。

パスタ作りの手順は単純なようで複雑、注意点が各所にあり、順よく書くのが難しい。枝元がうなりながらレシピ書きをしてるのをよく見ていたが、こんなに難しいものだったんだなと今更ながら。細かいところは省略して、一気に大局からいこう。

極意は、乳化とあおりである。

もう一回言いますよ。乳化と、あおり。

鍋でスパゲティをゆでながら、フライパンでオリーブオイル(多め)、ニンニク、トウガラシをゆっくりいためる。ゆで汁を少しずつ加えて乳化する。

あ、このとき、材料全部フライパンに入れてから火をつけること。それから、鍋のお湯は多すぎないこと(ゆで汁に小麦粉のうまみが出る)。あ、それから、グラグラ煮立たせずにゆでること。塩は多めね。

さて、所要ゆで時間の一分前。

ここが正念場だ。