鏡を見たYさんは満面の笑み(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは東京都の60代の方からのお便り。新しく介護老人保健施設に入居してきたYさんは、お風呂に入ることを拒み続け――。

Yさんは風呂嫌い

私が働く介護老人保健施設に、新しい入居者・Yさんがやって来た。75歳でひとり暮らしをしていたが、仕事を辞めたら生活が乱れ、食事もろくに摂らなくなってしまい、心配した娘さんが入居の手続きを取ったのだった。

軽い認知症は認められるが、普通に歩けて、トイレも自分で行くことができる。それどころか背筋はぴんと伸び、セミロングの白髪、耳にはダイヤのピアス、着ているのは某ブランドの服。実はこの方、以前はこのブランドのデザイナーをしていたのだそうだ。

しかし、入居してしばらくして、問題が発生した。Yさんの入浴拒否である。お風呂に入らぬまま1週間経ち、2週間経ち……だんだん臭いが気になってきた。

3週間経ったころ、お医者さんが「肌の調子を見たい」と言うので、服を脱いでもらった。そして「シャワーを浴びたほうがいいね」とひとこと。続けて「かゆくはないですか?」と聞かれるが「全然!」とYさんは答える。やはりシャワーは嫌がるので、その日は清拭のみで済ませた。

入浴拒否が始まって、ついに1ヵ月が過ぎた。Yさんからは異臭が漂う。ほかの入居者のことも考え、食堂の机もひとりだけ遠くに離しているような状況。もはや何としてでも風呂に入ってもらいたい。娘さんに聞くと、ご自宅には広いバスルームがあったそうなので、銭湯のように広いお風呂がある別施設に連れて行ってみた。しかし、結果は撃沈。

頭を抱えていると、ある職員が「そういえばYさんって、おしゃれな人なのに鏡を見ないわね」と。確かに。「昔はメイクもしていたし髪も染めていた」と娘さんに聞いた私はひらめいた。

「今日はカラーリングをしますよ」と美容師のマネをして浴室にご案内。薬剤がつくといけないので服を脱いでもらい、カラーリング剤を髪に塗り、洗い流した。「染まるまでのあいだに」と身体を洗い、風呂にも浸かっていただく。

白髪はきれいな栗色に染まり、軽く口紅も引いた。鏡を見たYさんは満面の笑み。

大成功! Yさんは嬉しそうに風呂場から出てきたのであった。


※婦人公論では「読者のひろば」への投稿を随時募集しています。
投稿はこちら

※WEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」がスタート!各テーマで投稿募集中です
投稿はこちら

【関連記事】
脱毛エステの無料カウンセリングに行った娘が帰ってこない!長時間動画を見せられ、執拗に勧誘され、契約寸前だった娘を危機一髪で助けたけれど…
一度は落ち着いたメニエール病が再発。ずっと付き合っていくしかないのかと不安になっていたけれど、思いがけず検査結果が改善!その理由は…
両親が他界し、ひとりっ子で未婚の私は寂しい独居生活に。母の助言を思い出し、町内会の夜間パトロールに参加してみたら…