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「揉めるのはお金持ちだけ」「我が家は仲が良いので大丈夫」などと考えていても、いざその場となると、摩擦が生じることが多いという遺産分割。「家族の信頼関係やこれまでの人生、そしてこれからの生活に深く関わる、非常にデリケートな作業で、単なるお金の問題ではない」と話すのが、中垣健税理士事務所の中垣健所長です。今回、中垣所長が携わったある家族の相続案件をご紹介。最初は円満に進んでいたはずの遺産分割協議が、思いがけない形でガラガラと崩れてしまったそうで――。*登場する人物や背景は実際の内容から濁したものにしています。
円満に成立したはずの遺産分割協議
ご相談をいただいたのは、地方都市に暮らすAさんという男性のご家族でした。
Aさんは会社を定年退職後、年金と駐車場収入で穏やかに暮らしておられましたが、73歳で肺がんにより逝去。遺されたのは、1歳年上の奥様と、42歳の長男、38歳の長女、36歳の次女の三人のごきょうだいです。
Aさんとは、生前に年1回、確定申告のお手伝いをする程度のお付き合いでしたが、「遺産相続のことは先生にお願いするつもりです」と言っていただいていました。その言葉どおり、葬儀後すぐに長男の方から連絡をいただき、遺産分割のご相談が始まりました。
長男は「父から先生のことは聞いていました。家族を守るのが自分の責任だと思っています」と、誠実な印象の方でした。
父親名義の土地に住宅ローンを使って自分名義の家を建てて住んでおり、その家は両親の住まいの隣にありました。そのため、Aさんの闘病生活中も、母親と協力して献身的に看護をされていたようです。
遺産は、自宅と駐車場、保険金、ある程度の預貯金が中心で、それなりに額があり、相続税が発生するケースでした。私は税理士として、二次相続(母親が亡くなった後の相続)の際に発生する相続税のことも見据え、総合的に見て税負担が最小限になる形をご提案しました。
それが、長男がすぐ隣に住む母親の面倒を見る代わりに、父親名義の土地と家屋、駐車場を長男が相続し、現金等は母親と長女・次女が受け取るというものでした。
話し合いの末に母親もきょうだい3人もこの提案に納得していただき、「これで安心です」と、円満に遺産分割がまとまりました。