なんとか無事に終えて
最終回となる130回の脚本を書き終えたときには、ほっとしました。なんとか無事に終えたなという気持ちです。お産した人が「1人目よりも2人目が大変」だとよく言いますが、それは経験上、辛さがわかっているからですよね。だから、私も今回の執筆はかなり覚悟していたんです。『花子とアン』の時は、一週間の中で、金曜日くらいにやることがなくなって、土曜日の回は絞り出すように書いていたことが何週かありました。『花子とアン』の時は週6日放送だったのが、『あんぱん』は週5日放送になっていたので、今回はそういう意味では恐れていたほどではなかったものの、やっぱり大変ではありました。
<教師となったのぶは、子どもたちに軍国主義を教える当事者となるも葛藤する。戦後、世の中の価値観が逆転したことで、さらにのぶの苦悩は深まった。戦争中に「愛国の鑑」と呼ばれたのぶは、朝ドラヒロインとしては異例の人物像だ>
『花子とアン』を描いたときに、戦争にまつわるいろいろな資料を読んで、「戦争は国が勝手に起こして、国民はそれに巻き込まれた」という描き方をするのは違うと思ったんです。でも、多くの視聴者の一日の始まりである朝ドラですから、ヒロインと戦争との関わりを描いたとしたら「花子にも戦争責任がある」としたら「視聴者のみなさんは毎日ドラマを見てくださるかしら」と不安がありました。悩んだ後に、花子と戦争の関わりにも触れたのですが、実は、もう少し踏み込んで描けたのではないか、と心残りも感じていたんです。
今回の『あんぱん』はやなせたかしさん夫妻をモデルに描く作品。やなせさんは絵本の『チリンのすず』や『アンパンマン』に「正義は簡単に信じてはいけない」「復讐は必ず連鎖していくもの」というメッセージを強く込めています。今回『あんぱん』を描くために作品を読み直して、改めてやなせさんは、一生をかけて詩や絵本や漫画で戦争への思いを描いたんだと感じました。だから『あんぱん』は企画の段階から「今回はしっかりと戦争を描く」と挑みましたが、引き留めるスタッフもいました。それでも、脚本家がぶれてはいけないと、「やなせたかしを描くということは戦争を書くということ」と覚悟を決めて、描き進めました。