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書籍や映画、そしてネット動画などを通じて、空前のホラーブームが起こっている昨今。実はその恐怖の根底には、私たちの多くが知る「怪談」があるといえるでしょう。誰もが知る怖い話、歴史的エピソードの中の怪奇譚、文豪にまつわる奇妙な実話……。もはや“名作”の域に達した話を、怪談の名手・吉田悠軌さんが厳選したのが『教養としての名作怪談』です。今回その本より「子育て幽霊」を紹介します。

戸を叩く音が

深夜、とっくに閉店した飴屋の戸を叩く音がする。

店主のAさんが出てみると、外にいたのは見知らぬ女。ぼんやりとした顔で一文銭を差し出している。いくらAさんが声をかけても、女は微動だにせず黙りこくったまま。

「まあ、うちの一文の飴を買いたいんだろうな、とは察したので」

不審がりつつも、Aさんは硬貨と引き換えに飴を渡してあげた。すると次の夜もまた次の夜も、その女が店を訪れるようになった。

いつもぴったり同じ時間に店にやってきて、無言で一文銭を出し、飴を受け取るとどこかへ去っていく。まるでショート動画のリピート再生かのように、寸分たがわぬ動作を繰り返すだけなのだ。