朝ドラ『ばけばけ』のモデルとなった明治時代の作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。英語教師として働くことになったハーンは、東京から松江へと赴きました。「山陰の奥の僻地」に現れた西洋人の姿を、当時の新聞はどう報じたのでしょうか?『ラフカディオ・ハーン 異文化体験の果てに』から一部を抜粋して紹介します。
富田屋旅館
八月三十日、ハーンは真鍋晃とともに米子で小さな汽船に乗って中海(なかうみ)を渡り、大橋川の棧橋で人力車にのりかえて、午後四時、松江の富田屋旅館に到着する。
富田屋では、女将のツネとその夫太平、年若い仲居のノブらが恭(うやうや)しく出迎えた。先にハーンとの間で契約の交渉にあたった県の事務官、毛利八弥の姿もあった。
島根県尋常中学校の二十八歳の若き教頭西田千太郎も挨拶に来た。
ハーンが二階の八畳と二畳の続き部屋に通されると、そこには県が用意した西洋式の机と椅子が運びこんであった。この日のことを、地元の『松江日報』は早速次のように報じる。