「自分が求める新しい家族を作るきっかけとして、結婚があってもいいんじゃないかなと思います。」(中村さん)(撮影:宮崎貢司)
作家の中村うさぎさんと文筆家の能町みね子さんは、ともにゲイの夫と結婚生活を送っています。ふつうの結婚とは違う形をとるふたりが語る、「家族」の意味とは(構成=竹花帯子 撮影=宮崎貢司)

自分のために生活することに飽きた

中村 “一般的な結婚”の概念からすると、能町さん夫婦もうちの夫婦も異色ですよね。お互い夫がゲイで、恋愛感情もセックスもないわけだから。

能町 お相手は、もともとお友だちだったんですよね?

中村 新宿二丁目の飲み友だちだったの。10歳年下の彼は当時、香港から日本に留学で来ていて、ビザの関係で帰らなくてはいけなくなったんですよ。ワーキングビザも取れず途方にくれていたから、勢いで「じゃあ結婚しようか」って、私から。まさか23年も結婚生活が続くとは、周りも本人も思っていなかったけどね。(笑)

能町 私は、一人暮らしがいやになって「結婚」を思いついたんです。20年近く一人で暮らしてきて、自分のために生活することに飽きてしまって。家事が嫌いだから料理もしないし、部屋も汚くて仕事が捗らない──。誰かと住めば生活が変わるかな、と思ったんです。ただ39歳にもなると、ルームシェアの相手も簡単に見つからない。女友だちは結婚している人がほとんどだったので、それなら私も結婚してみたらどうかなって。

中村 恋愛を経て結婚しようとは思わなかったの?

能町 はい。何回やっても、恋愛している状態が楽しいと思えなくて。付き合い始めは楽しくても、だんだん面倒になるんです。

中村 わかる。

能町 だから、どうにか恋愛なしで結婚という形に行きつく方法はないかと考えていた時に、うさぎさんの結婚の話を思い出して。ゲイが相手なら、恋愛要素なしで結婚できるじゃないか、と。その場合、相手は親しい人ではないほうがいいなとも思いました。

中村 甘えちゃうからってこと?

能町 なんというか、友だちだとかえって気をつかっちゃうんですよ。そもそも夫のサムソン高橋さんとは、10年ほど前にトークイベントの打ち上げで出会ったのですが、この時は挨拶程度で。彼のTwitterの投稿を読むうちに親近感を覚えていって、SNS上時々やりとりするようになりました。

中村 顔見知りのレベルですよね。決め手はあったんですか?

能町 私が“ゲイとの結婚”を考え始めた2016年に、サムソンさんが書いた文章をたまたま読み、なぜかこの人なら私の「結婚」に付き合ってくれるかも、と感じたんです。冗談まじりで結婚を持ちかけたら、なんと受け入れてくれて。

中村 思い切りましたね。

能町 同居して2年半ですが、うまくいっていると思います。サムソンさんになら嫌われてもいいやっていう気持ちが、どこかにあるからかもしれません。関係性もゼロからだし、恋愛感情もないから、失うものも、期待を裏切られることもない。嫌われたところで、関係性が変わらない相手というか。

中村 私は29歳の時、ふつうの恋愛結婚をしたんだけど、お互いに男女の役割分担のような意識があったし、文句ばっかり言い合って、結局、離婚したの。だから2回目の結婚では、文句を言わないし、言われない関係性を築こうとしたんです。今の夫は、お互いに干渉しないですむ距離感の相手かな。そもそも日常生活を世話してもらってる私が、夫に何か言える立場じゃないんだけどね。(笑)

能町 あはは。