寂しい時にそばにいないのは申し訳ない

中村 ふたりはケンカするの? うちは最初の3年、年末のたびに大ゲンカしていたんです。私が一方的にブチ切れるだけだけど、荷物をまとめてホテルオークラでそのまま年越し。それまで一人暮らしだったから、家に他人がいることにストレスが溜まっていたんだろうね。

能町 ケンカはまだないです。それよりも、仕事から帰った時に家に人がいるのが新鮮で。

中村 嬉しい感じですか?

能町 嬉しいっていうほどのトキメキではなく、面白いっていう感覚ですね。自分の人生になかったことが起こっているなって。

中村 私は結婚で自分の生活を乱されたり、邪魔されたくないって思っていた。だから恋愛やセックスも自由って約束したわけだけど、一度むこうに彼氏ができて、別居したことがあるんです。v

能町 寂しくなかったですか?

中村 全然(笑)。当時は新宿二丁目に住んでいたから、そのへんにいるだろうし、合鍵も持っていたし。1年ぐらい別居したけど、離婚とか夫婦解消はまったく考えなかったな。

能町 なぜ、「寂しくないか」とお聞きしたかと言いますと、サムソンさんは、定期的に数ヵ月単位で海外旅行がしたいらしくて。同居して2年半経って、一緒にいるのに慣れすぎたのか、そうなった時に私はけっこう寂しくなるんじゃないかと……。この気持ちは想定外で。かといって、「行かないでほしい」とも言いたくないし。

中村 一緒に行くっていう選択肢はないの?

能町 いやー。仕事も猫の世話もありますから。でも一人に戻りたくないんですよね。サムソンさんが海外に長く行くことになったら、危機的状況になるかもしれない。

中村 うちが危機的状況だったのは、私が毎晩のようにホスト通いをしていた時かな。出かける時に彼がぽつりと「いつもいつもひとり」って言ったんです。冗談だと思っていたけど、また別の日に「ホストクラブに行ってくる」って言ったら返事がなくて。私に背を向けて泣いてたのよ。

能町 えー!

中村 「私はもうあなたの人生に必要ないの?」って。恋愛もセックスも自由っていうのが約束だったし、朝帰りでもちゃんと家に帰ってはいたからびっくりしてさ。

能町 確かに。

中村 でも、そういえば1回目の結婚の時、この人と同じことを私も考えていたなって思い出したんです。夫が帰ってこなくて、すごく孤独を感じていたから。一人で暮らしている時の寂しさよりも、二人で暮らしている時の寂しさのほうがこたえるんですよ。一緒にいるはずの相手がいないとか、同じ部屋にいても心が離れているとか。私にはそっちの孤独のほうが耐えられないなって思ったんです。

能町 一人の時の孤独とは違う孤独ですよね。

中村 だから、たとえ恋愛感情がなくても、この人が一人でいることが寂しい時にそばにいないのは申し訳ないって思ったんだよね。