性愛はないけれど情愛はある
能町 恋愛結婚をして子どもを産むような人生に、私は多分憧れがあるんです。自分でもいやなんですけど、それが正しい人生だっていう気持ちがまだ心の奥底にあって。以前は友だちの結婚や出産の話を聞くと、正直、祝いたくもないぐらい最悪な気分になっていましたし。
中村 祝ってあげて!(笑)
能町 でも、こういうおかしな形態でも、結婚したことで変なこだわりや葛藤から解放されつつあるな、と感じています。結婚をしてみて思ったのは、同居人っていう形でも家族はいたほうがいいってことです。
中村 そうだね。歳をとると特に、何かしら助けが必要になるし、一人暮らしも自由でいいけど、支え合う人が近くにいるのはいいと心の底から思う。
能町 はい。人と暮らすと、自分の思い通りにならない不可抗力の要素が入ってくるじゃないですか。些細なことですけど、自分では買わないような家具や食器に囲まれるとか、同居人の友人との交流が生まれるとか。そういう予想外のことが起こらないと人生面白くないって、私は思うので。そのためにも、誰かが近くにいたほうがいいと思うんです。
中村 その誰かが、恋愛相手や血縁である必要はないんだよね。私たち夫婦には、性愛はないけれど情愛はある。夫婦として支え合って暮らすうちに、死ぬ時にはそばにいてほしいとお互いに思うようになったんです。私たちは生まれる時に家族を選べないじゃないですか。いい家族に恵まれる人ばっかりじゃないし、育つ過程で心を傷つけられることだってある。でも自分の選んだ相手と結婚することで、自分の好きな形の家族を作ることができるんです。
能町 ほんと、そうですね。私はこれまで恋愛という行為についてはまったく馴染めず、コンプレックスばかりでしたが、2人の関係を「結婚」とぶちあげたことで、「家族」を作ったという達成感が生まれました。
中村 恋愛基盤でセックスありきの結婚もいいけど、その基盤に乗れない人だっているじゃない。ゲイやトランスジェンダーもそうだし、私みたいにとっ散らかった女とかさ。そういう世間のスタンダードな人生の軌道に乗れない人たちにだって、家族は必要。自分が求める新しい家族を作るきっかけとして、結婚があってもいいんじゃないかなと思います。