SDGsという言葉もかなり浸透が進み、「持続可能」な社会や生活への関心はますます高まりつつある。が、そもそも日本人は、世界に誇る「MOTTAINAI(もったいない)」精神がDNAに刻まれた民族だもの、何をいまさらと思う人も少なくないはず。小暮さん(仮名・54歳)の場合、その節約魂は母親譲りで、とくに「裏紙」には母以上に強い思いを持っているという
きれいな紙に感じる畏怖の念
亡き母は昭和一桁生まれの常で、本当に物を大切にする人だった。「戦時中はパンツにまで継ぎを当てていた」そうだ。とくに服に対しては思い入れが深く、決して簡単に捨てたりはしなかった。
トレーナーの袖口が伸びたら切って八分袖にし、ひじ部分が薄くなったら袖を全部切り取って座布団カバーにする。父のワイシャツや姉のワンピース、そして私のジャージなども同じような運命をたどり、最終的には雑巾となってその役割を終えていった。
そんな母のもったいない精神は当然、娘である私にも受け継がれている。とはいえ、裁縫はあまり得意ではないので、衣類に関しては母ほど徹底することはできない。その分、というよりもそれ以上に執着し、絶対に無駄にしたくないものがある。それは「紙」。その思いが強すぎて、ちょっとした騒ぎを起こしたことがある。
忘れもしない、小学校3年生の時のことだった。新学期を迎えてまっさらなノートを買い与えられた私は、机の上に置いたそれをじっと見つめていた。その頃から私には、きれいな新しい紙に対して畏怖に近い感情があった。
このノートを下手な字で汚すなんて……。ブルブルッと身を震わせた私は、決然と立ち上がり納戸に向かった。そこには資源回収に出す古新聞が積まれていた。その横に置かれた箱には、裏が白い折り込み広告、いわゆるチラシが母の手によって取り分けてある。
漢字の練習をする時や好きなアニメのキャラクターを描いて遊ぶ時に使っていた。よその家でもやっている普通のことだ。これで十分じゃないか。私はチラシの中から、消しゴムを使っても破れそうにない同じサイズの紙を数枚選び出した。