常に強さを見せていなければならない選手たち
田中 全仏オープンの一連の出来事について、トップテニスプレーヤーだった愛さんはどう思われましたか。
杉山 すごく驚きました。というのも、テニスプレーヤーはジュニア時代からずっとメディアの大切さやつき合い方を学んでいます。トップに行くほどメディア対応は当然の責任だと誰もが捉えている、と思っていたので。しかもSNSという、ある意味一方的な形で発信したことにも驚きました。
田中 ああ、なるほど。
杉山 けれど改めて、ここまでの大坂選手の言動を考えると、負けた後の記者会見など相当なストレスを抱えながらやっていたのだということが理解できました。今回のことは苦しんだ末の結論だったのでしょう。ただ、2回戦で棄権になったのは非常に残念。誰も望んでいない形になってしまいました。ほかにもっと良いやり方があったのではないかとは思います。
田中 メンタルトレーナーの立場から見ると、会見拒否も、うつ状態のことをオープンにしたのも、ずいぶんと勇気が要っただろうなというのが第一印象です。
杉山 勇気というと?
田中 実は2019年に国際オリンピック委員会(IOC)は、「今後はトップアスリートのメンタル問題にも積極的に取り組むべきだ」と表明しています。そして20年のIOC国際アスリートフォーラムでは、参加した五輪経験選手のうち3分の2が「自分のメンタルの状態を人に明かすのはタブーだと思う」と回答しているのです。
杉山 弱さを隠そうとするトップアスリートたちの中で、大坂選手が自分から弱さをさらけ出したのは勇気があるということですね。
田中 はい。トップクラスの選手たちは常に強さを見せていなければならないという意識があります。でも、メンタルを健康に保つうえでは、一般的に「弱い」とレッテルを貼られることでも、口にすることは大切。それは「メンタルのしなやかさ」にもつながります。選手は自分が弱いと感じた時、その事実を伝えることは大事だとみんなわかっているけれど、口に出しにくい。