イラスト:花くまゆうさく
秋の気配を感じる涼しい日と、残暑の厳しい日。体温調節の難しい季節です。温暖化で年々厳しくなる夏の暑さ。今年の夏も、家庭や職場でエアコンの快適な温度設定をめぐってひと悶着あったそうで――。美術館の監視員を務める朝井佳織さん(仮名・38歳)の場合は……

冷え症一家の血はわが身にも

朝、勤務先の美術館に出勤すると、私は真っ先に多目的トイレの個室に駆け込む。背中や首筋にかいた汗を冷水に浸したタオルでぬぐい、服の下にユニクロのヒートテックインナーを着る。真夏でも一番グレードの高いタイプが手放せず、1枚どころか2枚3枚と重ねる日も。

さらに、200デニールの極厚タイツも必需品である。本当は使い捨てカイロも貼りたいくらいなのだが、白いシャツ、制服の濃紺のジャケットを羽織って持ち場へ向かう。

私は、美術館で展示室の監視員をしている。この8年間、シフトが入った日は朝9時から夕方5時まで、冷房が強くきいた部屋で働いてきた。

決して安くはないチケットを購入して入館されるお客様に、「お静かにお願いします」や、「写真撮影はご遠慮いただけますか」と声をかける業務は、正直なところ骨が折れる。ただ、それは求人票を見た時から予測できたこと。本当に想定外だったのは、展示室内の寒さだった。

一歩足を踏み入れると、そこには四季がない。貴重な絵画や美術品を劣化から守るため、365日ほぼ同じ温度と湿度になるように空調を設定しているからである。痩せぎすで冷え症、新陳代謝が悪く、東洋医学でいうところの「虚弱」体質の私にとって、年間を通じて室温18度に設定された部屋で過ごすのは、かなり厳しい。特に真夏には外との温度差が15度以上に及ぶ。

近年の西日本の暑さは凄まじく、梅雨が明けた途端、中華鍋の底にでも落ちたかのような熱気とムシムシとした空気が押し寄せる。口紅が溶けたり、クオーツ時計が狂ったりするのは、日常茶飯事だ。