イラスト:北住ユキ
そっと様子を窺ったり、励ましの言葉をかけたり。ふたたび立ち上がる日がくることを願うなか、わが家にも「8050問題」の影が忍び寄る。看護師の吉田さん(仮名)の元夫は、52歳でひきこもりになった。心配なのは、今後のことで──

口を開けば愚痴が出てくる

私の元夫は、52歳でひきこもりになった。今年59歳なので、かれこれ7年こもっていることになり、しかもいまは90代の母親が暮らす実家に身を寄せている。本来ならば定年を目前にして、老後の人生設計を立てているころなのに。

夫は1985年に大学を卒業して、大手化学メーカーに就職した。日本がバブルで盛り上がり始めていたころだ。「ほかの企業を受けさせないために、料亭に囲い込まれた」という武勇伝は何度も聞かされた。

だから、彼の中には「雇ってもらえてありがたい」という意識がないのだろう。結婚したときの「ひとつの会社にしがみつく人生は送りたくないなあ」の宣言通り、転職を繰り返す。新卒で入った会社は5年、短いところは2年で、最終的に7社を渡り歩いた。

52歳まで転職先が見つかっていたのは、彼が研究職であり、当時の日本の企業にまだ中途採用者を雇う余力があったことなど、幸運に支えられてきた面が大きい。

転職の理由はさまざまだ。「忙しいわりに給料が安い」「周りに向上心がないから、モチベーションが下がった」。外資系企業のときは、「上司が俺の英語力に文句をつける」と言っていた。

そして52歳のとき、最後の会社を辞めた。辞めたいと相談されたとき、私は「あなたはもう会社員にはなれないよ。52のおっさんを雇ってくれるところなんて、あるわけない」と言ったのに。本人は華々しい経歴を評価されて、大手化学メーカーの嘱託社員に納まる気でいたらしい。

だがその話は実らず、ハローワークに行ってみると、夫に残された選択肢は、警備員、スーパーの清掃、タクシードライバーなど。こうした体を使う仕事は、学生時代アルバイトもしていないおぼっちゃまには、ハードルが高すぎた。