撮影:本社写真部
「老いた親は子に迷惑をかけない」という風潮のなかで、「最期は子どもたちの世話になりたい」と著書『媚びない老後』で述べた桐島洋子さん。高齢者のリアルな本音をよく知る上野千鶴子さんは、桐島さんの意見に賛同。では、上手な迷惑のかけ方はあるのでしょうか。

まさかあの桐島さんが……

上野 私は桐島さんの最初の著作からの読者で、ずっと読み続けてきました。私より年齢がちょうど一回り上なので、こういう女性の生き方もあるのか、と。後に続く世代として、とても励ましになりました。

桐島 こちらこそ、上野さんの登場を、冴えた人が出てきてくれたなあと嬉しく頼もしく思っていました。

上野 桐島さんは未婚で3人のお子さんを産み、シングルマザーとして子どもを育て、結婚、離婚も経験しておられます。フルコース以上の人生です。そこへいくと私は、ずっと“おひとりさま”のままですから(笑)。とうてい真似はできません。

桐島 その時々、自分にとって具合のいい生き方を選んできたら、結果こうなった、というだけですが。

上野 年齢に応じて人生の節目節目で生き方を変え、それを作品にも書いてこられた。ですから先日『媚びない老後』が出たときは、即座に買って読みました。すると冒頭から、「最期は子どもたちの世話になりたい」と書いてある。まさかあの桐島さんが、と思う方も多いのではないでしょうか。

桐島 そのようですね。

上野 でも私はとても腑に落ちて、納得したんです。子どもを産み育てるために、女性はものすごいエネルギーと時間を投資しているわけでしょう。老後にちょっとくらいお世話になってもいいじゃないか、と。

桐島 私もそう思います。できることなら自分のことは自分で始末をつけたいけれど、老いや病気には勝てませんもの。その場合、他人様に迷惑をかけたり、お国の世話になったりするよりは、身内とりわけ子どもがまず責任を受容してほしいですね。

上野 ところが最近の高齢者は、「子どもの世話にはなりたくない」「迷惑をかけたくない」とおっしゃる。

桐島 どんな親であり子であったにしろ、親子の縁をいやおうなしに結んでしまったのだから。老後、子どもにほどほどの迷惑をかけてもいいと思います。なんで皆さん、そんなに遠慮するんでしょう。

上野 ひとつには、介護保険制度が始まる以前、親の介護などでつらい思いをしてきた方も多い。だから、同じ思いを子どもにさせたくはないと考えているのかもしれません。

桐島 私は自分の親の介護をほとんど経験していないので、そのあたりの実感がないのです。

上野 私は高齢者向けの講演では、子どもには「何があるかわからないから、その時はよろしくね、くらい言っときなさいね」とアドバイスしています。

桐島 人生、持ち回りですからね。それが、家族だと思います。

上野 桐島さんは最近になって、次女(桐島ノエルさん)と同居を始められたとか。ご自分が思ってらしたことを、実践したわけですね。

桐島 まぁ、一緒に住めば、なにかと便利ですからね。

上野 同居のご感想は?

桐島 お互いにベタベタしないほうだし、生活感覚が似ているので暮らしやすい。親子でも、まったく異質な人間という場合もありますからね。

上野 私は自分の親を、この人と親子でなければ、友だちにもならなかっただろうなと思ってきました。だから親子で価値観を共有できるとか、ライフスタイルが共通しているというのは、それ自体がすばらしい。

桐島 彼女となら、喧嘩をしながらでもうまくやっていけそうです。

上野 その前は、世代が下の友人夫婦と暮らしていらしたんですよね。

桐島 一軒家を借りて、いわばシェアハウスです。

上野 親子だったら縦の関係だけど、友人関係で年齢差があったら、斜めの関係ですよね。理想的な暮らし方だと思っていたのですが。

桐島 そう思います。別に、関係が悪くなったので解消したわけではないんです。長年カナダで暮らしていた次女が帰国することになったので、住む場所が必要だろうし、だったら一緒に住んだほうが合理的だと思って。ただ、彼女もいつまで日本にいるかわからないし、まだ流動的です。