加齢によるもの忘れは、誰もが経験すること。しかし、落ち込む必要はありません。「記憶力が強化できる!」と今、話題のトレーニング法をご紹介します。考案者である宮口幸治先生による解説を参考に、6日間かけて問題を解いてみましょう(構成=島田ゆかり イラスト=北川ともあき)

非行少年の教育から生まれた

「コグトレ」は、認知機能に着目し生きる力を高めることを目的としたトレーニングで、「コグニティブ(認知)〇〇トレーニング」の略称です。〇〇に「ソーシャル」を入れれば、対人スキルや問題を解決する力、感情コントロールなど社会面の能力を、「機能強化」なら読み書きや計算ができる学習面の能力を、「作業」ならボディイメージや力の調整、指先の作業など身体面の能力を鍛えることを指します。

私がコグトレを考案したのは、非行少年といわれる子どもたちとの出会いがきっかけでした。2009年から精神科医として少年院に勤務してきたのですが、そこには学校で教わるべきことをほとんど身につけられなかった少年たちがたくさんいました。彼らは見る力、聞く力、想像する力が弱く、そのせいで簡単な計算もできない、漢字も読めない、周囲を見て適切な行動がとれない。たとえば、ケーキをきちんと等分することができない《困っていた子ども》だったのです。

本来、子どもの発育には個人差があります。ですが、現在の学校教育のカリキュラムでは、一人ひとりの能力にあわせて細かな対応をすることができません。授業についていけない子どもたちは、一所懸命やっていても「頑張っていない」「さぼっている」などと言われ、取り残されてしまう。その結果、非行に走ってしまうことも。

そこで私が編み出したのがコグトレです。彼らが十分に育めなかった認知機能を一から養うことが目的でした。現在、小・中学校を中心に多くの教育機関で取り入れられており、トレーニングを続けることで、「社会面」「学習面」「身体面」の三方面の力を包括的に強化することを目的としています。

子ども用につくったコグトレが大人にも応用できると気づいたのは、あるタレントさんが認知症予防に、私の著書である小学生用の『漢字コグトレ』を使っているとテレビで話していたからです。「なるほど! これは大人の認知機能強化にも使えるんだ」と、私のほうが気づかされました。

加齢とともに落ちていく認知機能を少しでも維持するためにつくられた「脳トレ」とは異なり、コグトレは力を一から養っていくもの、と考えてください。現在では、高齢者の認知症予防、脳機能障害の認知機能リハビリテーションなどでも活用されるようになっています。

コグトレに取り組むと、「記憶」「言語理解」「注意」「知覚」「推論・判断」といった5つの要素(力)を含む知的機能を高めることができます。「記憶」と「言語理解」は「覚える」トレーニングで、「注意」は「数える」トレーニングで鍛えることが可能。また、「知覚」は「写す」トレーニングと「見つける」トレーニングで、「推論・判断」は「想像する」トレーニングで鍛えられます。

読者の中には、人の顔や名前が思い出せない、今言おうとしたことを忘れてしまうなどの記憶力の低下を感じている人も多いのではないでしょうか。そういう場合は、「覚える」トレーニングに取り組むとよいでしょう。最近注意力がなくなったと感じる人は、「数える」に取り組むのも手です。