わが子に怯え、加害者の家族として生きられるか
親と子は別人格。いつかは離れなくてはならないのはわかっている。でも母は思い悩む。それはいつ?どうやって?
土屋麻里、51歳。パチンコ屋の景品交換所で勤務中、換金用の特殊メダルが偽物だと気付いた。犯罪は未然に防げたが、警察から事情聴取を受けた後、麻里は姿をくらます。
連れ込み宿の掃除係のときも、総菜店の厨房スタッフのときも、何か事件が起きたり、自分の噂が立ったりすると、麻里はすぐさま辞めて住まいも替える。世間に背を向け、見つからないように生きている。
思い出すのはこんな生活をする以前のことだ。
麻里にはかつて夫がいた。短大卒業後、就職して出会い結婚し、岳という息子も生まれた。可愛く頭もよく、誰からも好かれ人気者に育ったのに麻里はいつも不安だった。
何か他の子とちがう。周りには愛嬌を振りまくが悪知恵がまわり、生き物の命を粗末にし、人を支配することを当たり前と思っているようにみえる。
だが夫も、教育の専門家も麻里の不安を一蹴する。思い過ごしだ、考えすぎだ、と――。
ある日、危惧したことが起こる。14歳で大きな事件を起こした岳は少年刑務所に収監された。麻里は母親としてマスコミと警察から追いかけられ、世間から糾弾される身となったのだ。
成人となった岳の出所が決まり、身元引受人として一緒に暮らすことが、麻里は怖くてたまらない。岳はどんな風に成長したのか。自分が理解できる人間になったのか。
大きな犯罪のあと、マスコミは必ず加害者の家族のもとへ行き責任を問う。犯人が未成年ならなおさらだ。しかしその加害少年が世間に受け入れられない特殊な子だったら、親は子をどうすべきなのか。捨てるか、殺すか。
重い命題を突き付ける小説だ。ラストシーン、私ならどうしただろう?