今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『やっかいな食卓』(御木本あかり著/小学館)。評者は書評家の東えりかさんです。

大家族に問題続出。2つの食卓は1つになるのか

私が子どもの頃、60代といえばもう老人だった。ところが同じ年代に近づいたいま、昔バカにしていた「まだまだ若いもんには負けん」というセリフを言いそうになっている。

著者の御木本あかりさんは69歳。この作品で小説家デビューを飾った。第一線で働きたい嫁と元気に老後を過ごす姑の軋轢を生き生きと描いている。

高畠ユキは緑川ユキとして売り出し中のフードスタイリスト。ある日夫の建から姑と同居してほしいと懇願される。一緒に住んでいた独身の兄の駆が交通事故で急死し、母親を一人にするわけにはいかないという。

最初は頑として拒絶したユキだが、小学生の息子の旬は不登校気味で、いまは様子を見守っている最中。昼間誰かがいるのはありがたいし、都内の一等地に住めるのも魅力だ。二世帯住宅としてリフォームし、完全に生活を切り離すことを条件に同居を決めた。

外交官だった夫を早くに亡くした姑の凛子は活動的な老婦人だ。海外でのおもてなしの経験から料理教室やテーブル花の先生として働き、書道を習い、古文書を読む会にも参加している。

別所帯でも玄関は一緒という生活で、凛子は家に引きこもる不登校の孫が気にかかる。旬と昼食をともにしただけで、生活に侵入するなといきり立つ嫁には閉口している。

そんなとき、亡くなった駆に隠し子がいたことが発覚する。その子の母親も早世したため、凛子が預かるしかなくなった。果たしてこの家族、どうなってしまうのか。

こんなに大騒動が次々巻き起こる家族も珍しいが、女性のキャリア問題や親の晩年、子供の問題など、ひとつくらい同じような経験をしている人は多いだろう。トラブルのない平穏な生活なんてありえない。

普通の家族の普通でない日常を美味しい料理で彩った、お腹が空いてしまう小説だ。