なにせ人というのは、生きていることを正当化したくて仕方のない生き物なのだーー
翻訳を引き受けた絵本が先日刊行されたというマリさん。その本との出会いによって、いったん立ち止まり、深呼吸をしたような心地になったそうで――。(文・写真=ヤマザキマリ)

絵本との出会いで深呼吸をしたような心地になって

今年、私が翻訳をした『だれのせい?』というイタリアの絵本が発売された。美しい色彩で彩られた動物たちの描写にも惹かれたが、イソップ童話を思い起こさせるレトリカルな物語が印象的で、原書を読んですぐに翻訳を引き受けた。

コロナ禍を経て相変わらず慌ただしい毎日を送っていた最中だったが、この絵本との出会いによって私はいったん立ち止まり、大きく深呼吸をしたような心地になった。

主人公のクマは兵士という設定。自己顕示欲のかたまりで、おしゃれな鎧にカラフルな盾と立派な剣をたずさえた姿で描かれている。

そんなクマの自慢の剣は、どんなものであろうとスパッとまっぷたつに切ってしまう最強の武器だ。クマには、自分がその剣をたずさえている限りこの世で怖いものなど何もないという自信がある。

(写真=ヤマザキマリ)

しかし、その剣の切れっぷりに酔いしれていたクマは、身の回りのあらゆるものを切ってしまい、それがもととなってとある事故が発生する。自己顕示欲を暴走させたがゆえに自分が困る立場に立たされるのだが、クマはそれを自分ではない他者のせいだと決めつけ、「そいつをまっぷたつにしてやる!」と憤る。

しかし、責任を押しつけられた他者たちも、それは自分たちではない別のだれかのせいだと責任転嫁をし、最終的には、剣を振り回した自分にすべての原因があることをクマは認めざるをえなくなる。

憤りのやり場を失い、自らをまっぷたつにできないクマはしばし考え、自分の横柄さを自覚する。そして困らせてしまった動物たちを救済するようになる。