改革の始まり

改革は、普段の生活を見直すところから始まった。日体大OBで全国高校駅伝8度優勝の名伯楽、渡辺公二・西脇工業高前監督を特別強化委員長に招いた。大半の部員が暮らす寮での生活は練習や試合、パフォーマンスにつながる全ての源だ。

トイレのスリッパは整然とそろっているか、顔を合わせた時のあいさつはできているか、消灯時間に全ての照明は消えているか。

『箱根駅伝-襷がつなぐ挑戦』(著:読売新聞運動部/中央公論新社)

それまでどこかおざなりになっていた「当たり前のこと」を当たり前にできるように、意識を徹底した。

野菜や肉、魚だけでなく、塩や醤油などの調味料に至るまで、体に良い食材にこだわって入れ替えた。

「伝統校として長く続けてきただけに、何となく流されてきたことが多かった。そういう細かいことを全て見つめ直そうと。甘えをなくし、足元を見る作業だった」と別府は取り組みの真意を説明する。

再建のカギを握っていたのが服部だ。新主将はミーティングで監督の横に立って全体を観察することから始めた。自信がなさそうに下を向く選手には声をかけ、仲の良い選手に詳しい事情を聞いた。

当初、チーム内や卒業生の間に、3年生の主将に対する懐疑的なまなざしがなかったわけではない。「上級生と下級生の間に立って、どう振る舞うべきか、試行錯誤の連続だった」と服部。精神的なストレスで一時は円形脱毛症になった。