「日本語以外にもオノマトペが存在する言語はもちろんあるのですが、どれも外国人がスッと理解するのは難しい。」(今井さん)

オノマトペは外国語に翻訳できない

今井 五味さんの著作は、いろんな言語に翻訳されているでしょう?

五味 ええ、おかげさまで僕の絵本は30ヵ国以上で翻訳されているけど、日本語のオノマトペを別の言語に翻訳するのは、やっぱり無理なんだよね。

今井 でも2004年刊行の五味さんの本、『日本語擬態語辞典』は、擬態語に五味さん独特の絵と解説がついていて、とても面白かったですよ。

五味 あれも、オノマトペを外国人に伝えたいと思って作ったのだけど、なかなか難しかったね。言葉には、その国や地域でしか体得できないニュアンスがあるでしょう。

たとえば「ヘビ」を見て「ニョロニョロ」という感じがわかる国の人と、そうじゃない人がいる。昔、京都の日本語学校で外国の人たちに聞いたら、「ニョロニョロ」がヘビのどんな状態を指すのか、13ヵ国くらいの人には伝わらなかったもん。

今井 日本語以外にもオノマトペが存在する言語はもちろんあるのですが、どれも外国人がスッと理解するのは難しい。なぜなら、万国共通のオノマトペというのはただの一つもないからなんです。

たとえば「滑らかな」という形容動詞を、日本語では、さらに「サラサラ」「ツルツル」などと使い分けますよね。母語だとその微妙な違いが感覚でわかる。でも、ある年齢を過ぎてから外国語として学習した人は、体感として腑に落ちないんですね。日本語がすごく達者な留学生でも、オノマトペはわかりづらいと言います。

五味 日本人の僕らからすれば、日本語のオノマトペって、感覚で使えて便利で楽ちんな言語形態。でも、外国の人にとっては、噛み砕いて説明するのが難しい「感覚」を表す言葉をゼロから丸暗記するしかないから、大変だよね。

今井 言葉の意味って、文化に根ざした感情や歴史から生まれているものだから。たとえば、「犬」に対して持つイメージも文化によって異なるんです。イラクでは犬は、縁起が悪くて危険というイメージがあるそう。決して日本みたいに《人間の友達》とか《ペット》とかじゃないと聞きました。

五味 「ブタ」もそう。ブタって日本ではちょっと《愚か》というイメージがあるでしょ。「あいつはブタっぽい」なんて言うと悪口になる。でも、オランダの絵本作家ディック・ブルーナさんに聞くと、「オランダではブタは豊かで上品な人の象徴だ」って言っていたからね。

今井 へぇ、そうなんですね!

五味 ほかにも、北欧ではクマは人間を襲う動物だから危険なものとされていて、可愛いクマのぬいぐるみは作らないんだって。「クマ=可愛い」というイメージが定着すると危ないから。

今井 やはり感情や価値観に紐づけられた言葉やモノは、国や地域で異なって当然ですよね。