心理学者の今井むつみさん(左)と絵本作家の五味太郎さん(右)(撮影:本社・奥西義和)
〈発売中の『婦人公論』11月号から記事を先出し!〉
心理学者として言語学の基礎研究にも携わる今井むつみさんの『言語の本質』(共著・中公新書)がベストセラーになり話題です。同書では擬音語や擬態語が言語の秘密に迫るカギになると説いています。そんな今井さんが、言葉を自在に操り、数多くの絵本を描いてきた五味太郎さんと初めて語り合いました(構成=玉居子泰子 撮影=本社・奥西義和)

「ゴロゴロ」には何種類の意味がある?

今井 私は普段、言語について心理学的な観点で基礎研究をしたり、実験をしたりしています。五味さんとはお話ししたいと思っていたので、今日はお会いできて嬉しいです。

五味 あはは、恐れ入ります。僕は基本的には遊びと仕事の境目がごちゃ混ぜになっているような感じでね。今井先生のように基礎研究とか下調べをするのは苦手なんです。今日も時間を調べず来たら渋滞に巻き込まれて困ったくらい。

今井 私が最近出版した『言語の本質』は、「オノマトペ」を材料にして言語の特徴について考えた本です。「ぐるぐる」「もふもふ」などの擬態語や、「ゴロゴロ」「ニャーニャー」のような擬音語を総称して、オノマトペと呼びます。このオノマトペが、実は言語の起源と言語習得の謎を明らかにするうえで重要なのではないかと、世界的に注目されているんですよ。

五味さんの絵本にも、たくさんオノマトペが出てきますよね。たとえば五味さんの『ことばのいたずら』という絵本。「かみなりさんは そらでゴロゴロ うちでもゴロゴロ くるまもゴロゴロ おなかもゴロゴロ ピー」(『ことばのいたずら』絵本館)なんて、すごく面白いですよね。

「ゴロゴロ」というオノマトペは、いろいろなところで使えて、しかも意味が全然異なるでしょう。言葉が、記号として一つのことだけを伝えるものではなく、意味も使い方も、その時々で変わっていくということを、よく表しています。

五味 「ゴロゴロ」って語呂合わせの「ゴロ」でもあるんだよ。語呂合わせの本だから、わざと「ゴロゴロ」という言葉を入れて、いろいろな意味を持たせたの。面白いでしょ。

五味太郎 著 『ことばのいたずら』(絵本館)より