憧れのミュージシャンたちとの共演
エド・シーランがジャスティン・ビーバーとコラボした〈アイ・ドント・ケア〉や、チャンス・ザ・ラッパー&PnBロックと共演した〈クロス・ミー〉はシングル曲として今年5月に配信されているし、カリードとのヴォーカル・ハーモニーが切なく美しい〈ビューティフル・ピープル〉は6月にリリースされている。それどころかこれらの曲が収録されたこのアルバムそのものが7月に発売されているから、すでに聴いた、という方も多いかもしれない。
でも、エド・シーランの2年前の大ヒット盤《÷(ディバイド)》の次作となる《No.6コラボレーションズ・プロジェクト》こそが最も“今”のミュージック・シーンを象徴する重要な作品だと思うから、一度はちゃんと取り上げておきたい。なぜなら、収録された15曲全てがコラボレーション作だからだ。
RUN-D.M.C.というグループが、ラップ初のミリオン・セラー・アルバム《キング・オブ・ロック》を出したのは、もう34年も前の1985年のこと。そしてエミネムが登場して、ラップ史上最も売れた男と言われるようになって22年。その後、黒人アーティストたちによるギャングスタ・ラップ旋風が吹き荒れるのを横目に見ながら、「こんな流行はきっとじきに終わるだろう」と思っていたらとんでもない。いまやラップは白人の音楽であるカントリー&ウエスタンの世界にも飛び火して、ついに今年の8月3日、20歳の黒人ラッパー、リル・ナズ・エックスがカントリー畑のベテラン、ビリー・レイ・サイラスに参加を求めたカントリー・ラップ曲〈オールド・タウン・ロード〉が、60年にわたる米ビルボードのシングル・チャート史上最長の17週間1位という偉業を達成している。あろうことかクリスチャン・ミュージックの世界からまで、ラップのヒット曲が出てくるというありさまなのだ。
つまり、メロディの美しさに心象風景を乗せてロマンティックに語るだけでは届かない思いの丈から、日常の不平不満、自己主張まで、豊富に饒舌に語ることができるラップという表現方法が、ウィンドウズ95が発売されてネットブームに火がつき、ネット社会と呼ばれるようになった昨今の風潮にはぴったりくるのかもしれない。
だからこそ、エミネムをはじめ、ラッパーたちと共演したこのアルバムが今のミュージックシーンを象徴することがわかるだろう。エド・シーランは、インスタグラムで今年5月、「自分は2011年にレコード契約を獲得する前に、《No.5コラボレーションズ・プロジェクト》というEPを作ったんだ。それ以来、また次を作りたいとずっと思っていた。それで昨年のツアー中に、僕のラップトップ上でまず作り始めたんだ」と語っており、エドにとってメジャー4枚目のこのアルバムは、まさにその続きの“No.6コラボレーションズ・プロジェクト”ということになる。昨今のコラボ流行りに便乗して楽をしようと考えたわけでは決してないらしい。
コラボ相手はみんな、エドが日頃から好きで聴いていた人たちで、その誰もが自分で大ヒット曲を書いて作りだせるような魅力も実力もある人たちなのが素晴らしい。
なかでもブルーノ・マーズとカントリー系のシンガー・ソングライター、クリス・ステイプルトンをフィーチャーした〈ブロウ〉は、まるでハードロックかヘヴィメタルの乗りだし、カミラ・カベロとセクシーな女性ラッパー、カーディ・Bとコラボした〈サウス・オブ・ザ・ボーダー〉はキューバ系、ドミニカ系の血のざわめきが熱く肌に伝わってくるような肉感的な作品だ。
全15曲。配信された楽曲を時代のリズム感とともに、現在流行系の音楽として楽しく聞き流すのも今風な聴き方かとは思うけれど、エド・シーランのような才能ある人の音楽だからこそ、いい年齢の大人がアルバムという形でじっくりと愉しんでみることもオススメしたい。
エド・シーラン
ワーナー 1980円