未練を断ち切るため、二度目の家出を決意
一度だけ、駄目元で彼に電話をかけたことがある。彼は電話に出てくれたものの、「お前とは話したくないって言っただろ」と一言告げて、電話を切った。私はそこでようやく、自分が嫌われたことを悟った。私はいつも、いろんなことに気づくのが遅すぎる。
喪失の痛手は、思いのほか大きかった。それまでもいろんなものを失ってきたけれど、彼の存在は私の中で特別だった。だからこそ、知らぬ間にどれほどの重荷を背負わせてきたのかと考えると、申し訳なさで息が詰まった。
心が消耗するたび、無意識に足が向いていた彼の実家方面を意識的に避けた。代わりに、海に行った。しかし、地元の海や川は彼との思い出と密接に関わっており、結局は彼の面影に苛まれる羽目となった。
この土地にいたら、正気が保てない。
海に浮かぶ月を眺めながら、この町を出ようと決めた。高校生の当時と違い、多少なりとも貯金はある。彼の面影以外、この町に未練はなかった。
そこから逃れたいと思う日がくるなんて想像もしていなかったが、彼の側はとうの昔に私から逃げたかったに違いない。
目の前で死のうとしている同級生を引き留めたら、その同級生が両親から酷い虐待を受けていることを打ち明けられた。
命を救おうとしただけなのに、自分の手に余る重い荷物をいつの間にか押し付けられて、それでも私の気持ちを慮り「重い」と言えずにいた数年間、彼はどれだけ苦しかっただろう。
インターネット上で求人検索をして、すぐに仕事と家を決めた。両親には、何も伝えずに家を出た。二度目の家出だった。