人との関係を遮断し、殻に閉じこもる日々
新しい土地ではじめる新しい生活。そこに浮き足立つ気持ちは一切なかった。私は、誰とも深く交わらず、誰とも関わらずに生きていこうと決めていた。
私の過去は、重すぎる。かといって、それらを隠そうとすると、いくつも嘘をつかなければならない。お盆や正月に帰省しない理由。「母の日」や「父の日」の贈り物。そういうものを尋ねられるたびに、いちいち気疲れを起こす。
親と縁を切って生きている人間は圧倒的にマイノリティで、詳細を話さなければ私の心情は理解されない。それどころか、「親不孝者」として責めを負う始末である。
人と関わりを持たなければ、そんな煩わしさからは解放される。100点以外を許されずに育った私は、ゼロか百かの黒白思考が強い。何より、「自分のような人間に関わると相手を不幸にする」と本気で思っていた。
職場でのコミュニケーションを最低限にとどめれば、あとは誰とも関わる必要がない。仕事以外の時間は、独りきりの空間で好きなことをする。それでいい。それで十分だし、それ以上を望んではいけないのだと思った。求めるから拒絶されるし、望むから絶望する。だったらはじめから、何も望まなければいい。
SOSの出し方も知らず、人との正しい関わり方も知らない。全力で甘えるか、一切の関わりを断ち切るか。その両極しか持ち得ない私は、さながら体だけ大きくなった赤ん坊のようであった。