日本人の感覚に近いものをもつオーストリアの人々

欧米諸国の人々は概して他人のことなどお構いなしで、自己主張が強いものだと思っていたけれど、オーストリアの人々は日本人の感覚に少々近いものがあり、人目を気にして極力目立たぬよう保守的な装いを心がける方がいらしたり、とりわけザルツブルクの田舎ではご近所同士の相互扶助の精神も強く、景観を乱さぬように細心の注意を払う必要がある。庭の芝刈りを定期的に施すことはもちろんのこと、テラスや窓辺に据えられたフラワーボックスにお花がないなんてもってのほかである。

『文はやりたし』(著:中谷美紀/幻冬舎文庫)

本来ならば、白いお花だけの単色か、せいぜいグリーンを加えただけのシンプルなコーディネートで盛夏のテラスを彩るつもりが、嵐の中、ずぶ濡れになりながら生花店にて購入した花たちは、すでに近隣の方々が買い尽くして品薄状態で、ピンクに黄色、青に紫と、少々雑多な色合いになってしまった。

購入したばかりのマウンテンバイクやロードバイクにて大小様々な家を通り過ぎる度に、美しく整えられた窓辺のフラワーボックスを眺めては、次こそはもう少し趣味の良いコーディネートにしようと心に誓うのであった。