祭りの後は少々寂しいものだけれど

晴れた日には慌てて洗濯物を干しては山歩きやサイクリングを楽しみ、雨が降れば買い物をしたり、フィットネスクラブでゆるやかな筋トレをしたりしてやり過ごし、曇りの日には庭仕事をして、その傍らでコンサートやオペラを存分に鑑賞していた忙しい日々も終わりを迎え、ザルツブルクを離れることとなった。

祭りの後は少々寂しいものだけれど、盛夏の余韻を残しつつ、ほどなくして訪れる冬に備えて薪棚をこしらえることが最後の仕事であった。電話一本で近所の牧場の若旦那が一年分の薪を持って来てくださるという。

いつもはトレーニングのために歩いていた裏山から、干した薪を更に小さく割る音がカ~ン、カ~ンと響き渡り、1時間ほどしてトラクターに牽引された薪の山が家の前に降ろされた。

今しがた割られたばかりの薪のほのかな香りを楽しみながら、壁際に薪を積んでいく。

少々太いものや、やせ細ったものなど、様々入り交じるそれらをできる限り均一に並べるのだけれど、素人の私ではあまりうまくいかず、ところどころ無駄な隙間ができてしまう。

薪をただ積み上げていくだけの作業は、存外に難しく、二日がかりの仕事であったけれど、いつしか現代アートのように美しき薪棚を組めるようになることが、目下の目標である。

「モサモサと生い茂る我が家のメドウガーデンは、不在時には雑草が支配し、雨後にはナメクジが葉も花も食べてしまうのですが、季節ごとに異なる表情を見せてくれます」(『文はやりたし』(幻冬舎文庫)より)

※本稿は、『文はやりたし』(幻冬舎文庫)の一部を再編集したものです。


文はやりたし』(著:中谷美紀/幻冬舎文庫)

ご縁あってドイツ人男性と結婚して始まった二拠点生活。一年の半分は日本でドラマや映画の撮影に勤しみ、残りはオーストリアで暮らしを楽しむ。肝試し代わりにタクシー運転手にドイツ語で話しかけたり、サイクリングやコンサートを楽しんだり。夏は自然に囲まれた山荘で、料理や庭造りにご近所付き合い。不便だけれど自由な日々を綴ったエッセイ。