仕事と結婚生活の両立など、私にはとてもできないと
旅に出る自由や、寝食の自由は独身であるからこそ謳歌できるものであるし、何を誤ったのか、演じるという奇妙な職業を選んでしまった都合上、否、この職業でなくとも、生来の性さがによりひとり思索に耽る時間はどうしても必要で、仕事と結婚生活の両立など、私にはとてもできないと思っていた。
それならば「専業主婦になればいいじゃないか」という向きもあろうが、女優という職業に執着している訳でも何でもなく、人様が稼いだ、あるいは相続で引き継いだお金をありがたく使わせていただくという立場におとなしく収まるような人間でないことは、己が一番よくわかっている。
ところが、世の中には同じように自由を謳歌し、お互いに自立した関係を望む男性もいるもので、ひとり気ままに迎えるであろう老後に向けて万全な準備をはじめていた私がはからずも結婚した相手は、女性が専業主婦になることを求めず、自分の身の回りのことくらいは、自分でできる生活力が身についており、結婚という制度にも過度な期待をしていない人だった。