2023年10月2日から放送が始まったNHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。その主人公・福來スズ子のモデルは昭和の大スター・笠置シヅ子だ。ドラマは今週、趣里さん演じるスズ子が上京して作曲家・服部良一のモデルの羽鳥善一(演・草なぎ剛さん)と出会うところまで進んでいる。派手なアクションに長いつけまつげ、戦前は「スウィングの女王」、戦後は「ブギの女王」と呼ばれた彼女は小学生も虜にしたという。ジャズミュージアムちぐさの館長で、『鎌倉ジャズ物語』著者・筒井之隆氏に、シヅ子の魅力について綴ってもらった。
『第2回NHK紅白歌合戦』に登場した笠置シヅ子
1952年1月3日、小学生だった私は『第2回NHK紅白歌合戦』をラジオにかじりついて聴いていた。紅白は第3回までは大晦日ではなく、お正月に放送された。私はズキズキ、ワクワクしながら、笠置シヅ子の出番を待っていた。時々電波の状態が悪くなって聞こえなくなると、木製の箱に入ったラジオをトントンと叩いた。たいていの故障はそれで治った。
白組の司会者は藤倉修一、紅組は丹下キヨ子だった。ひときわ大きな拍手と歓声が起こり、笠置シズ子が登場した。歌ったのは服部良一作曲、村雨まさを作詞(服部のペンネーム)の「買物ブギー」だった。
ご存じの方はわかると思うが、「買い物ブギ―」はかなり個性的な歌詞だ。近所に買い物に出た主人公が魚の種類を連呼して魚屋さんを困らせ、隣の八百屋では野菜の名前を並べたてて、「ああややこしい」と嘆いてみせる。
レッスンの最中にあまりに複雑な歌詞に思わず「ややこし、ややこし」とぼやいたのを、服部が面白がってそのまま歌詞に取り入れたという。あとに続くのが、「ちょっとおっさん」といういかにも大阪らしいフレーズだ。たたみかけてくるジャズ的なリフ(繰り返し)やフェイク(変化)を聞いて頭がぐちゃぐちゃになったところで、テンションを高めていき、絶頂に達する。
1拍の休止符が入って決め台詞となり、「あ―しんど」とスローダウンして終わる。テレビのない時代である。歌っている姿を妄想するしかない。すると、愛嬌のある下がり眉や、3センチもある(と言われていた)付けまつ毛や、顔の半分ほどに開かれたルージュの口紅や、ハイヒールの足を高々と上げて踊っている姿が強烈な存在感を伴って眼前に現れるのだった。