大阪が生んだ最高のジャズ・シンガー

「メーク・リズム」のパワフルさは、ハリウッド映画でも活躍しているマーサ・レイも「瞠若たらしめる」ノリであり、転調しての「接吻して話してよ」ではフォックス映画のスター、アリス・フェイを凌ぐ哀愁と情緒で「ひとを夢の如き情感に誘うのである」と、パワフルさと情感、動と静の魅力を兼ね備えていると絶賛している。

彼女にとって大阪的なものは、非常に有利な条件だった(写真提供:Photo AC)

また、下町的な親しみやすさと叙情味が、ナンバーによっては黒人アーティストのような哀愁にも変化して、その小柄な体躯、愛嬌のある要望も魅力になっていると、ステージにおけるシヅ子の特徴と魅力を徹底的に分析している。

そして「彼女にとって大阪的なものは、非常に有利な条件なのであって、彼女が舞台の端にひょいと示すとぼけた味は、東京の人間にはおそらく持ち得ないものであろう」と、関西出身のコメディエンヌ、パフォーマーの絶対的な強みを看破している。

1980年代、映画原稿の執筆を始めた筆者は、20代で、幸運なことに双葉十三郎先生と知遇を得た。都内の試写室で、時折、映画の感想を話したり、昔の映画について、質問する程度だったが、少年時代から映画雑誌「スクリーン」(近代映画社)誌上での「ぼくの採点表」を通して「映画の見方」を学んだ若輩として、双葉先生の文章に垣間見える戦前のショウビジネスへの熱い思いが、何よりも道標となっていた。

ある時、戦前のジャズの話になって、双葉先生が「ブギの女王になる前、戦前に、帝劇で観た笠置シヅ子は本当に素晴らしかった。戦後、映画で観たジュディ・ガーランドに比肩する」とにこやかに、いささか興奮気味に話してくれた。