長男・忠を抱く八郎と椅子に座る父・紅緑(写真提供◎佐藤愛子さん)

センチメンタルですぐに泣く

八郎さんは中学生の頃から詩人の福士幸次郎に詩を学び、西条八十に師事。23歳で第一詩集『爪色の雨』を上梓しました。お父様の反応は?

――「何が爪色の雨だ。爪なんてちっぽけなものを材料にするなんて。天下国家とか壮大なものに目を向けろ」と怒ってました。でもそれも八郎に聞いた話でね、ホントかどうかわからないですよ。ほらふきですから。

私は八郎の詩のなかでひとつ挙げるとしたら「象のシワ」というのが好きでしたね。
八郎が晩年、入院していた時に私、見舞いに行ってね。「兄さんの作った詩のなかじゃ私、ゾウの詩が、最高に好きなんだわ」って言ったんです。そしたらなんにも返事しないで、大きなほっぺたに涙が伝って流れました。亡くなる少し前の話です。

八郎はすぐに泣くの。センチメンタルなんですね。

 

涙し、感傷的な詩を書く八郎さんと、10代後半にはケンカでたびたび警察の世話になるなど破天荒なことで有名だった八郎さん。その間に落差を感じますが……。

――八郎にはある種の鋭敏な感受性があるんです。だからすぐに激怒してケンカしたり、感極まって泣いたり、女に惚れたり、わがまま勝手に振る舞ったりする。それぞれの感情が八郎のなかにはあるわけです。

人間は、いろんな要素を併せ持っています。ひと色じゃないんです。矛盾だらけですよ。

世間の人は、あの作家はこんな人間だと決めてかかるのが好きですね。それがわかりやすいからなんでしょう。でも、わかる必要はなくて、そのまま受け取ればいい。八郎はそういう人だった。それしかないの。