20年ぶりの入室
とある日。4キロをほどウォーキングを終えて、体が温まった頃にいざ、銭湯(サウナ)へ。
料金は入浴料が500円、サウナをつけると1000円ほど。ハンドタオルとバスタオルを手渡される。このタオルを装着していることが、浴場内にあるサウナへのパスポート。料金支払い済みの印である。
脱衣所から浴場へいくと17時という中途半端な時間のせいか、客はちらほら。サウナの位置を確認して、まずは温泉に浸かる。私はこういうところで聞く、女性同士の会話が非常に好きだ。あちこちから聞こえてくる悩みや、噂話、愚痴を聞いていると、常日頃の自分のストレスが軽く感じる。当日はご婦人ふたりから、こんな話が聞こえた。
「今日もね、あの人、うちに孫を置いてから買い物に行ったのよ」
「あら、孫を連れてくると喜ぶとでも思っているのかしら……」
「ねえ、あの人も一人時間を楽しむなら、私も! って主人に任せてお風呂にきちゃった」
「いいじゃないの。ねえ、この間いただいた梨、あれおいしかった~」
ご婦人たちの会話は四方八方から話題の矢が吹き込まれてくるようで、すぐに内容が脱線する。(そうか、最近のおばあちゃまは「嫁」と呼称せずに「あの人」「うちの方」と呼ぶのか……)ぼんやりそんなこと考えながら、これから迫ってくる(勝手に)試合に気持ちを備えていた。
心のなかで、皆からさんざん仕込まれた、整いお作法を反芻する。まずはサウナに5~10分入室、水風呂に30秒から1分、外気浴を5~10分。これを1セットと呼び、初心者は2~3セットに到達できたら、合格ラインに達するという。まあ、そこまでは無理だろうと、頭と体にタオルを巻いて、入室。
2人が並べる程度の室内には、2段ほど座れるスペース。これに入り口付近の2席を加えると、6人で満室になるほどのこじんまりとしたサウナだった。時折、溶岩ボールに水が注がれ、ジュワ~ッと音を立てて蒸気が噴出している。
(……熱い)
当たり前である。5分間の砂時計をひっくり返したところ、ものの1分程度で、おばさんの心は折れそうになってきた。室内には私よりも年配と思しき女性2人と、サウナハットを被った若そうな子と合計4人。皆、なにも話すことなくひたすら汗を掻いている。私も自分の滝汗を眺めながら、なぜか「この人たちに負けてなるものか」と負けず嫌いを勃発させて、熱さに耐えた。
(あ~、この間取材したMEGUMIさんも「サウナはいいですよ! 頭がすっきりする!」と答えてくれたし、著書にも書いてあったもんな。そうだよ、この戦いを終えたら私はMEGUMIになれる! あ~、ご褒美にビール買っていいかな、いいとも! 今日のご飯どうしようかな~、誰か作ってくれないかな~)
私の脳内は暑さで錯乱状態。何かを考えて必死で紛らわそうとしたけれど、100度には敵わなかった。それでも10分間を耐えて、退室。向かいの席に座っていたサウナハット女子は完全に寝落ちしていたけれど、大丈夫なのだろうか。そんなことを考えながら、続いてのステージ、水風呂へ。