時代小説の楽しみ方
あるいは、藤沢周平の作品にも根強い人気があります。『蝉しぐれ』(文春文庫)をはじめ、海坂藩という架空の藩を舞台にした青春小説はたいへん読みやすい。
かなり以前の話ですが、私が実家の父にすすめたところ、次に帰省した際には三〇冊ほど積み上がっていました。「たしかにおもしろかった」と。一つでもおもしろい作品に出会うと、同じ作家の作品を次々と読みたくなるものです。
同じく時代小説の名手といえば、山本周五郎でしょう。
『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』などが有名ですが、短編小説「おさん」(『おさん』に収録)も名作。大人の女性の魅力と儚はかなさを感じさせてくれます。
あるいは本人が生きた昭和初期を舞台にした自伝的小説『青べか物語』(いずれも新潮文庫)には、貧しくとも逞しい登場人物が多数登場します。山本文学の原点を垣間見ることができます。
かつてエッセイストの杉浦日向子さんは、『江戸へようこそ』(ちくま文庫)など多くの著書で、江戸文化について詳しく紹介されていました。
その描写はいずれも臨場感にあふれていますが、それもそのはず。杉浦さんは自身が江戸に生まれて江戸に生きているという感覚で書かれていたそうです。
また臨場感を楽しむという意味では、江戸時代の浮世絵などを見る手もあります。今なら、ネットや芸術系の雑誌等で簡単に見ることができるでしょう。それらの絵からは、当時の庶民のおおらかさやユーモア、それに美意識が感じられます。
そういうものを見て、江戸時代のイメージを膨らませたうえで時代小説を読むと、いっそうリアルに楽しむことができるのではないでしょうか。