ド定番の司馬遼太郎作品

時代小説で定番中の定番といえば、やはり司馬遼太郎の作品でしょう。

綿密な取材に、「司馬史観」と称される独特の歴史観が加味され、歴史上の人物が明るくイキイキと描写されているのが特徴です。かならずしも史実どおりではないかもしれませんが、記録にない隙間をいかに想像力で埋めるかで、作家の力量が問われます。その点において、司馬は間違いなく一級の作家です。

司馬といえば、『竜馬がゆく』(文春文庫)があまりに有名でしょう。全八巻に及ぶ長編小説ですが、読み出したら止められないような疾走感と、歴史が大きく転換していくダイナミズムを感じることができます。一読してみれば、なぜ同書と坂本龍馬に根強いファンがいるのかわかると思います。

加えて私がおすすめしたいのは、『竜馬がゆく』とほぼ同時代を舞台にした『世に棲む日日』(文春文庫)です。全四巻中、前半二巻で吉田松陰、後半二巻で高杉晋作の短い生涯を描いています。

周知のとおり、二人は松下村塾における師弟関係にあります。松陰は塾生に対して激烈なメッセージを送り続け、高杉は遊び心を持つ塾の俊英でした。そんな二人の生きざまを軸に、長州が倒幕に向かうという日本史上の大転換期を活写していくわけです。

松下村塾(写真提供:Photo AC)

彼らの気概・気骨の強靭さは、現代人から見れば想像を絶するものがあります。そのギャップと、同じ日本人としての共感とが相まって、読者を物語の世界へ誘ってくれるのです。

しかも、かなりの長編でありながら、きわめて読みやすい。軽い筆致なので、一日で一冊読むことも可能でしょう。これは、司馬の他の作品にも共通する特徴です。

※本稿は、『人生最後に後悔しないための読書論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)

年を重ねた今だからこそ、わかる本がある。何歳からだって読書を始めれば、新たな「ステージ」へ。博覧強記の齋藤教授が、文学や哲学からマンガまで古今東西の作品をもとに、人生100年時代を充実させるヒントを伝授。文豪・谷崎潤一郎の「変態」な記録、戦う美しい高齢者を描く『老人と海』、江戸時代の「健康本」、世界「三大幸福論」の魅力などなど。挫折した本に再挑戦するコツなどをまとめた「ライフハック読書術」も充実。老後の生活を支えるのは「知性」だ。齋藤式メソッドを身につければ、若年層を導く安西先生のような「老賢者」にあなたもなれる!