齋藤先生が勧める『楢山節考』『恍惚の人』から現代の私たちが学ぶべきことは――。(写真提供:著者)
2022年7月の厚生労働省の発表によれば、2020年に生まれた人のうち、男性の28.1%、女性52.6%が90歳を迎えると予想されるなど、長寿と呼ばれる人の割合は年々増えています。一方「年を重ねたからこそわかる本があり、読書を始めれば、何歳でも人は変わることができる」と話すのが明治大学文学部の齋藤孝先生です。齋藤先生が勧める『楢山節考』『恍惚の人』から現代の私たちが学ぶべきことは――。

パルム・ドールを獲得した『楢山節考』

一九八三年、フランスで開かれたカンヌ国際映画祭では、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』がパルム・ドール(最高賞)を受賞するのではと期待を集めていました。

ところが実際に獲得したのは、同じ日本の今村昌平監督『楢山節考』。まったく"ダークホース"だっただけに、当時は日本でもずいぶん話題になりました。

原作は深沢七郎の短編小説「楢山節考」。「姥捨て山」をテーマにした作品です。貧しい地域の因習として、七〇歳を迎えた高齢者は、口減らしのために山に入らなければいけない。つまり死にに行くわけです。しかも、老いた親を背負って山へ連れて行くのは子どもの役割。どれほど辛いかは、想像に難くありません。

あくまでも民間伝承であり、実際にこういうことが行われていたかは定かではないそうですが、昔ならあっても不思議ではないでしょう。地域を共同体と捉えた場合、その維持存続を第一に考えると、限られた食料は高齢者より幼い子どもを優先して分配せざるを得ない。そうすると、より高齢な人から順番に共同体を去ってもらうしかないわけです。

ただ読んだ感触が意外に悪くないのは、当の老母がきわめて高い精神性を持っているからです。「山に行きたくない」と抵抗するのではなく、むしろ「早く連れて行ってくれ」と息子に訴える。立派な歯がまだそろっていることは恥ずかしいとして、自ら石で砕く。そして最後は、山中で置き去りにする息子に向けて両手を合わせて拝む。

悲惨でせつない話ではありますが、痛々しさとともに、人間の尊厳や崇高さも感じさせてくれます。