『恍惚の人』は記念碑的な作品
これは人口構成や財源など構造的な問題で、そう簡単に解決できることではありません。ただ個人レベルで考えるなら、私を含めてこれから高齢に向かう世代が、できるだけ若い人の世話にならないよう、今のうちから心がけることはできます。端的に言えば、認知症の予防です。
認知症は運命的な病気で、個人の努力で防ぎ切ることは難しいかもしれません。しかし、できるだけ脳を使い、鍛えることならできるはずです。「脳トレ」で有名な東北大学加齢医学研究所の川島隆太先生によれば、音読も予防や改善の一つになるとのこと。かつて私は川島先生と『素読のすすめ』(致知ブックレット)という共著を出したほどですから、間違いありません。
すでに認知症は珍しくないため、『恍惚の人』で周囲の人の大変さを初めて知る、という人はほぼいないでしょう。しかし最初に警鐘を鳴らし、近未来を見事に言い当てたという意味では記念碑的な作品です。文学として、あるいはジャーナリズムの視点で読んでみるのもおもしろいでしょう。
※本稿は、『人生最後に後悔しないための読書論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)
年を重ねた今だからこそ、わかる本がある。何歳からだって読書を始めれば、新たな「ステージ」へ。博覧強記の齋藤教授が、文学や哲学からマンガまで古今東西の作品をもとに、人生100年時代を充実させるヒントを伝授。文豪・谷崎潤一郎の「変態」な記録、戦う美しい高齢者を描く『老人と海』、江戸時代の「健康本」、世界「三大幸福論」の魅力などなど。挫折した本に再挑戦するコツなどをまとめた「ライフハック読書術」も充実。老後の生活を支えるのは「知性」だ。齋藤式メソッドを身につければ、若年層を導く安西先生のような「老賢者」にあなたもなれる!