今は高齢者のほうが強者なのかも

現代の私たちがこの作品から学ぶことがあるとすれば、若い人たちの邪魔をしない、ということが一つだと思います。

今は「老害」などと呼ばれたりしますが、たとえば仕事にしても、若い人のチャンスを奪ったり、頭ごなしに抑え込もうとしたりしていないか注意する必要がある。本人に自覚がなくても、若い人は高齢者に少なからずプレッシャーを感じているものです。

だから、それまでどれほど組織に貢献していたとしても、ある程度の年齢になったら、第一線の役職はできるだけ後進に譲ろう、自分はサポートに回ろう、ぐらいの感覚でちょうどいいかもしれません。だいたい「定年」や「任期」というのも、そうして組織の新陳代謝を促すためのシステムだと思います。

『人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)

もっと現実的には、お金の問題があります。マクロで見ると、日本の二〇〇〇兆円にのぼる個人金融資産のうち、六割強は六〇歳以上が持っているそうです。しかもそれを、ほとんど使わずに貯め込んでいる。だから日本経済は回りにくいわけです。

使い道があるならどんどん使ったほうがいいし、特に使い道がないなら若い世代に渡せばいい。子どもや孫のほうが、住宅ローンや教育、あるいは何らかのチャレンジのために資金需要は旺盛なはずです。

その意味では、「楢山節考」の世界観とは逆に、今は高齢者のほうが強者なのかもしれません。だからこそ、若い人に気を遣わせることなく、しかるべきときに自ら身を引く覚悟を決めることが大事ではないでしょうか。