齋藤先生曰く「安西先生はじめ、本に登場する老賢者から学ぶべきことは多い」そうで――。(写真提供:婦人公論.jp)
2022年7月の厚生労働省の発表によれば、2020年に生まれた人のうち、男性の28.1%、女性52.6%が90歳を迎えると予想されるなど、長寿と呼ばれる人の割合は年々増えています。一方「年を重ねたからこそわかる本があり、読書を始めれば、何歳でも人は変わることができる」と話すのが明治大学文学部の齋藤孝先生です。齋藤先生曰く「スラムダンクの安西先生はじめ、本に登場する老賢者から学ぶべきことは多い」そうで――。

マンガ・アニメに登場する老賢者の代表格・安西先生

マンガ・アニメの世界の老賢者といえば、井上雄彦さんの大ヒット作『スラムダンク』(集英社)における安西光義先生が代表格でしょう。

主人公の桜木花道らが所属する湘北高校バスケットボール部の監督で、推定年齢は六〇歳以上。かつて大学チームの監督だったころは「白髪鬼」と呼ばれる厳しい指導者でしたが、ある出来事を機に転換し、今は「白髪仏」と呼ばれるほど温厚で選手たちからも慕われています。

何より魅力的なのは、しばしば発せられる"名言"の数々。とりわけ有名なのが「あきらめたらそこで試合終了ですよ」でしょう。

主要メンバーの三井寿が中学生のとき、県大会決勝で敗色濃厚となってあきらめかけていた矢先、コート脇からかけられた言葉です。三井はこれを聞いて発奮し、決勝シュートを決めるわけです。またこれをきっかけとして安西先生に心服し、湘北高校への進学を決めました。

ところが入学後、三井は怪我をして自暴自棄になり、不良仲間とともにバスケ部を潰そうと体育館に乱入しますが、逆に桜木たちから返り討ちに遭います。そこに現れたのが安西先生。三井が涙ながらに「バスケがしたいです」と訴えるシーンは、全編中でも屈指の名場面と言われています。

あくまでも高校バスケ部の面々が中心の青春物語なので、安西先生は脇役です。しかしもし存在しなければ、ずいぶん寂しい感じになっていたと思います。安西先生という錨のように落ち着いた大人がいるから、自由奔放な高校生ばかりでも場が締まるのです。これも老賢者の役割でしょう。

しかも、安西先生は温厚なだけではありません。桜木をはじめとしてメンバー個々人の才能を見抜き、最大限引き出すように指導していくわけです。それも目先の試合に勝つためというより、もっと先の高校卒業後の人生まで見据え、的確なアドバイスを送っているように見えます。架空のキャラクターではありますが、指導者としてたいへん立派な姿勢だと思います。