大選手のそばには老賢者的な指導者やコーチが

こういう指導者は現実にも存在します。今や日本球界を代表する投手の一人になった千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手は、大船渡高校時代、最後の夏の県大会決勝戦に登板せず、チームは敗戦。これが物議を醸しました。

佐々木投手は当時から突出した逸材で、登板していれば勝てたかもしれません。勝てばもちろん、甲子園に行けたわけです。しかし同校の國保陽平監督は、もっと先を見ていた。ゆくゆくはプロとして活躍できる選手だから、高校の時点で無理をさせてはいけないと考えたそうです。佐々木投手本人は悔しい思いをしたでしょうが、今から振り返ればたいへんな慧眼だったと思います。

『人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)

考えてみれば、多くの大選手のそばには老賢者的な偉大な指導者やコーチがいました。メジャーリーグを席巻している大谷翔平選手にプロでの二刀流をすすめたのは、日本ハムファイターズ時代の栗山英樹監督です。

また古くは、王貞治さんに一本足打法を指導した荒川博コーチも有名でしょう。自宅の天井から垂らした紙を日本刀の真剣で斬るという独特の練習が話題になりました。野球というより武術の練習に近かったわけですが、王さんにはその方法が合っていたのでしょう。八六八本というホームランの世界記録が今も日米で破られていないことこそ、その何よりの証拠です。