今、短歌を詠みたいか、詠めるかが、心身のバロメーターにもなりますよね。あまりに忙しすぎて心がすさんでくると、歌が生まれにくい。

岡本 ほんと、そうですね。

 どこにいても詠めるというのも、短歌の魅力。『サラダ記念日』を出した頃は東京で暮らしていましたが、息子が生まれ、土と緑のある幼稚園に通わせたいと思って、両親がいる仙台に引っ越しました。

そして東日本大震災の直後、春休みの間だけのつもりで石垣島に行ったら、小学生男子にとって天国のような環境だった。それで、そのまま住み着いたんです。

岡本 フットワークが軽い!

 息子が宮崎県の山奥の全寮制中高一貫校に入りたいというので、次は宮崎。息子が大学に入って手が離れたら、親が高齢になり日常の手助けが必要になってきたため、今は仙台です。短歌は日常生活の中での発見が作品に繋がるから、移動は悪くない。

岡本 確かに。私は東京にワンルームマンションを借りて二拠点生活をしていますが、それが自分には合っているようです。

 東京と地方、それぞれ良さがあるものね。東京の良さは、気軽に芝居を観たり、お洒落なレストランに行ったりできる点。そういう娯楽はつまみ食いが可能だけど、地方の良さは住むことでじわじわ感じるようになる。

岡本 東京は、建物がなくなると、「ここ、何があったっけ?」と前の景色を忘れがちです。でも地元の場合、山や川など変わらない景色がある。そこに記憶が積み重なっていくんだなと、1年経ってようやく思うようになりました。